第2話 鴉
月は村の人々を見つつも、やはり少年を注視していた。少年も、やはり月を見ていた。
「今日の月はなんだか綺麗に見えるね」
少年は独り言ちている。
月はその言葉を聞いて、ほっとするような、けれども悲しいような、なんとも言えない心情になっていた。それは少年の日頃の生活を見ていたからであった。
少年は、元々父子家庭だったが、父が失踪してから途方もなく一人で暮らしていた。だから、身なりもとても綺麗とは思えないし、全く痩せていたから実に可哀そうな子であった。
少年は金がないあまり、闇雲に今まで窃盗を繰り返していた。けれども月はそんな子供にそうまでさせてしまう、思いやりの欠片もないこの街に嫌悪感を抱いていた。けれど月は月であり、到底何もすることはできなかった。
少年は毎日ここに来る。だから月もこの子が来てからは、毎日ここを見に来るようにしていたのだ。
ギブスをした少年は左手に少し注意しながら、右ポケットから一枚の紙きれを取り出す。それはきっと何かが書かれてある、つまりは手紙か何かだと、月は思う。
今度はその少年が先ほどのごとく、紙切れを凝視している。
そして、この子は強い子だと、月は思った。
少年は紙切れから目を離して顔を上げた。
月は少年の表情を見て、きっと、頬を伝う涙よりもその強かで真っすぐな表情こそが本当の心情であると思うのであった。
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