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ミキちゃんが帰ったあと、少しだけ控室で休もうと思ったが、店内のスタッフたちが慌ただしく動いているのが気になった。
なにか、あったのだろうか。今日の大きなイベントと言えば、タイチのシャンパンタワーくらいだが、そのトラブルか。
いつも余裕の表情を崩さないはずのウルルも、フロントカウンターのむこうで、なにやら深刻そうな顔で、タイチと話し込んでいる。タイチのほうは緊張した面持ちで、落ち着きなく髪を搔きむしっていた。さっき控室で腹を抱えて笑っていた男とはまるで別人物のようだった。
西島は、どうしても確認したくなった。もしかしたら、例のあの件がバレているんじゃないか、という不安がある。西島の件である可能性は低そうだが、その件ではない、とはっきりさせておきたかった。
「どうしたんすか?」
近づいていって慎重に聞くと、ウルルだけが振り向いた。なにかを言おうとして、タイチのほうに向き直り、またこっちを見た。言うべきか、迷った末に、言うことに決めた、という動作だ。
「タイチのシャンパンタワーをやるつもりだった姫が、時間になっても店に来ないし、連絡も取れない」
「飛んだ……」
「ああ、そうだ」
そういうことか、と納得した。またか、とも思った。
ホストクラブで遊ぶには膨大なお金が必要であり、お金が払えなくなって姿を眩ましてしまう女の子はわりと多い。
もう死んでるのか、どっかに逃げているのか。どうあれ、シャンパンタワーはすでに準備されていて、いまさらキャンセルできない。女の子が見つからなければ、シャンパンタワーおよそ二百万円がタイチの借金になってしまう。
「それはまずいですね」
「ああ」
ウルルは、いまいちどタイチへと向き直ると、タイチとのやり取りに乱入してきた西島に急き立てられるように、口早に言った。
「とにかく、何度も電話してみるしかないな。そんで、このまま連絡がつかなかったときのためにも、シャンパンタワーを肩代わりしてもらえないか、ほかの姫にお願いする。いまできるのはそれくらいだから」
「わかってます。ホント、ごめんなさい。迷惑をかけまして」
小さく頭を下げると、タイチは店の奥へと急ぎ足で去っていった。
なにはともあれ、例の件ではなくてよかった。現在の西島がひとりきりで抱えているものと比べれば、シャンパンタワーを飛ばれるくらいのことはなんでもない。タイチには申し訳ないが。
安堵を胸に控室へ向かおうとしたそのとき、「サトシ、いいか」と、ウルルに呼び止められた。
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