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ミキちゃんは左利きだから、右手を握ったままでも問題はない。西島は、それをわかったうえで、ミキちゃんの右手をずっと握っている。
「ほかには、どんなことを?」
少し言いにくそうにしてから、一息に言った。
「『お前の考えは聞いてない。俺が言ったとおりにしろ』って。『お前なんか、やめちまえ』とまで。それに、『お前のこと見てると、むかむかするんだよ』とか」
言葉の節々にピリッとした辛さがあり、その怒りが心の奥底にまで根を生やしているのが読み取れた。
言葉にして口から放たれるまでの間に、かなりの冷却装置を通っていることは間違いないだろう。
「そんなことを? ただの客が?」
「うん。ホント、しんどかった」
「ひどすぎるな」
あからさまに大きな声を出す。ミキちゃんの顔を見れば、大きな声を嫌がってないことは明らかだ。
西島は、ここで、このままミキちゃんの心を代弁するように怒ったほうがいいのか、あるいは、そんな目に遭って苦しんでいるミキちゃんの自信を取り戻すために褒めまくったほうがいいのか、どっちが適切か、考えた。
考えるうえで絶対に忘れてはいけないのは、ミキちゃんが噓の話をしているということだった。
アパレルショップの店員の設定になっているが、もちろん、そんなわけがない。本当のところは、デリヘルやソープで働いてて、中年のおじさんを相手に性的な行為をしていたのだが、おじさんが無茶なことを言い出して、言われるがままにやってしまい、メンタルに大きなダメージを受けた、しんどくて、今日は風俗に働きに行けなかった、といったところだろう。
自ら風俗で働いていることを打ち明ける女の子は多くない。
とはいえ、現実的に考えると、ホストクラブに通うために若い女の子が手に取ることのできる手段は限られている。
そこまで考えなくても、ミキちゃんが話をつくりながら口を動かしていることは火を見るより明らかだった。
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