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いくつかヘルプについたあと、西島は、控室に行った。スマホの内カメラを起動させ、鏡にして、セットしてある髪が乱れていないかどうか、確認する。
そこにタイチが入ってきた。
「シャンパン、よかったっすね」
先に口を開くと、タイチは破顔した。
「強く押してくれたことは、ありがとな」
無駄なところで満面の笑みをしてしまうのは、タイチがビジネスマンのように顔を使い分けることのできる器用な男ではないことを示している。顔中にシワを寄せていながら、無理をしている感じがちっともない。ひとつひとつの動作に噓偽りがなく、身構えることなく関わることができる。
「おたがいさまです。タイチさんにはお世話になってるんで」
西島は、スマホを覗き込みながら、応じた。
「でも、ヤバいっすね。あの子、思ってたよりヒモが緩くて。まさか五十万のシャンパン開けちゃうとは。正直、無理だと思ってたんで。俺としても、驚いてるっていうのが、ホントのところですよ」
「頑張ってくれてるんだよ。俺のためにお金、必死に稼いでくれてて、俺も頑張んなきゃなって」
タイチは、きゅきゅっとネクタイを緩めた。狭い控室内の真ん中を占領しているチンケなソファに、どかっと腰を下ろす。
「俺は、本気で、今月ランクインするつもりだから。そのことをわかってくれてるから、姫様も、奮発してくれんだと思うわ」
ホストクラブの中では、毎月、所属ホストたちを売り上げでランク付けすることになっている。上位に入ってくると役職名がついたりして、それは客を集めるのに有利に働く。ホストの多くは売り上げを競っているし、もちろん、西島も意識している。
タイチのように、売り上げを伸ばすという目標を姫様と共有し、一緒に頑張ろう、というスタイルをとっているホストも多い。
ちなみに、姫様がシャンパンを開けたときの売り上げは担当の売り上げとなり、どんなに活躍をしてもヘルプの売り上げは伸びない。ヘルプのときに助け合うのは、まさにお互い様というわけだった。
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