第5話 闇のカードなので家庭的なことはしないはずだった(過去形)
《死虜龍 レギオー》、主人公の周りにいる
雑魚! 小物! クソ煽りドラゴンの恥晒し!
これらの言葉は事実を列挙しているだけなので何の問題もありません。まあ逃げたのは《
ああ、名前でわかるかもしれないが《
友人、《
友人の皆へ「この世界2周目」真実という重大情報の共有がされました。《
……いや、思い出してる前提と思い出してない前提の話が唐突に混ざるから皆混乱してたし、その度に自分が話の軌道修正するハメになったの大変だったからそこまでありがたくはなかったかもしれない……。
《
さっきまでおかしいと思われていた存在が自分から正気だよって言っても信用はされない、皆も覚えておこう!
――これまでの話が終わったら、これからの話が始まるのは当然のこと。
前の世界よりも主人公のメンタルは安定している上に【光】【闇】混合デッキと強くなっている。理解ある頼れる仲間がちゃんといる。つまり、友人皆も今より強くなればワンチャン元凶討伐勝ちルートに入れるのでは? となり。
……皆特訓のために異世界行っちゃった。
異世界といってもデッキ世界じゃなくてもっと大元、いろんなモンスターが住んでる異世界。誰も知らない強モンスターがごろごろいるから認められてデッキに投入できたら間違いなく戦力増加はできる。
案内人? ……《
まーた自分の思ってもない考えが捏造される気がする〜!
『…………むう』
なんか最終決戦近付いてるから闇堕ちさせるスキマ時間なくなったし、一人って暇だし……寂しいね。
あ、自分は現在主人公のお家で実体化しています。皆が異世界に特訓行ったと敵にバレないように【闇】でジャミングしてる。実体化といっても大きさそのまんまだと家具とか床とか破壊しかねないのでミニサイズ状態。つまりゆるキャラ化……ゆるしゃーろいで? グッズ化間違いなし。
ラスボスとのバトルで敗北し自分が消滅する可能性を減らすためにも、そしてラスボスが持つ世界を弄る力をラスボスを倒した後パクって理想の主人公闇堕ちシチュエーションを盛り込んだ世界を作るという新たな野望のためにも!
――ご飯作って待とうと思います。
特訓でヘトヘトお腹減ったー状態の人間がご飯を作れるか? ……ウンウン、できるかもしれないけど大変だよね。だから用意してあげようという優しさ。余計なことに気を割かずに強くなるという一点に集中していて欲しいからね……。
今日作るのは……じゃん、皆大好きカレー! しかもカツカレーにしてあげよう。勝負にカツ、の縁起を担いでおいて損はないでしょう。えー何人分作ればいいんだ? まあカレーなら明日も保つし多めにしとこ。
カレー作る用のお鍋、揚げ物用のお鍋、まな板、計量カップ、生ゴミぽいするための袋、市販のカレールー、使ってもいいだろうお野菜、カレー用のお肉、カツに使うお肉、塩、胡椒、卵、パン粉、薄力粉、たっぷりの油。
ガスの元栓はOK? ヨシ。
……準備完了したのでまずお野菜を切ります!
龍に包丁なぞ不要。まな板の上に置いたお野菜を翼で押さえて、爪をこう……ちょいちょいと引いてカット! カット! 皮剥きもしっぽのとんがった刃物っぽいとこ使って、手で回転させていい感じにシューッと一発! お肉も食べやすい一口サイズにカット! カレールーもカットカット!
お鍋に油をちょいと垂らして熱したら材料たちを炒める! 火が通ったら水を加えて煮こむ。アクを取るのを忘れずに。煮込みタイムの間にカツ用お肉の筋を切って塩と胡椒をまぶす。卵といてー、パン粉お皿に出しといてー。……ん、煮えてきた? カレールー入れて、溶けたの確認。
ほい、カレー完成! ……まだ帰ってくる気配ないから火から下ろしておきましょう。
油を揚げ物用の鍋に投入し加熱! お肉は薄力粉、卵、パン粉の順番でセッティングして……むう、もうちょっと早くから油の用意はしてよかったかもしれない。
油の温度がカツ揚げられるぐらいまで上がったらセッティングしたお肉をそいやー! うーんこのテンションが揚がる音最高〜! よしよし良きカツの完成、では油を切って……あっそろそろ帰ってきそうやっべ――。
***
異世界に作られた扉をくぐった先は、俺が見慣れたリビング。
「あ〜っ疲れた〜!」
「クソ、あと少しで何か掴めそうだったのに……!」
「なんで僕はドローの練習よりもダンスを練習する必要があるんだ……?」
がやがやと騒がしく帰還する皆。
特訓一日目は……まあ、可もなく不可もなく。もとよりすぐ強くなれるとは思ってない。各々、クセのあるモンスターから出された試練だったり、強くなるという目的と全く関係なさそうなことをさせられている。
お腹の減る香りが鼻をくすぐる。
「あれ、光咲? メシ用意してくれたのか。なんかわりィな……後でカネ出すわ」
「この匂いはカレー!? うわぁお鍋たっぷり! さんきゅーっ!」
そんな馬鹿な。異世界に行く前、料理を作り置きした覚えはない。……というか、帰ってきてからのご飯とか何も考えてなかった。
そして気のせいだろうか、猫みたいにクッションの上で丸まってる《死統龍 ヘルシャーロイデ》からカレーの香りが――うっ、俺が前もって準備したことにしておいてくれという視線が凄く刺さる。
「ねー、せーやー! 食器どれ使ったらいーいー?」
皆は俺の家の食器棚内の配置なんて知らない。家主の助けを求める声に対し、さっさと行け、とばかりに龍はフスンと鼻を鳴らした。
人数分の食器を出して、盛り付けは個人のお好みの量を。
「あー、うま」
疲れた体にカレーが染み渡る。変なアレンジを加えてない、カレーの慣れ親しんだ味。ただ気になるところがあるとすれば、焦げ付かないよう何度もカレーをかき混ぜたからなのか野菜の角がかなり丸くなっている、ぐらい。
『死統龍……?』
『離れよ、貴様が望むものは尽きてはおらん』
《
……まあ俺の好きな食べ物の中にカレーは入ってるし、前の世界の俺も好きだったんだろうな。うん。
賑やかな部屋、これからのことを共有する仲間達。
――もう、悲劇を繰り返させはしない。
「勝つさ、必ず」
誰にも聞かせる必要のないそれを言葉にし、カレーで少し衣がふやけたカツが乗ったスプーンを口に運んだ。
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