第2話 闇のカードなので主人公の光デッキと相性はよくないはずだった(過去形)

 ――どうしてこうなった。


 頭を抱えたくなるのも無理はない。なんかよくわからない感じで正義側になってしまった。何故? 主人公の懐の広さ? だとしても今発揮するかぁ!?


 頭の中で『どうしてこうなった♪ あっそーれどうしてこうなった♪』の掛け声と共にデフォルメされた《お祭り男 ワッショイン》達が踊っている。ウオーッ頭の中から出ていけ!


『不快だ……』


 というか主人公が闇堕ちしていないままなのに自分がデッキに入れられたのがマズイ。新エース扱いなのもとってもマズイ。

 何故なら《超越決戦コールモンスターズ》にあるモンスターが暮らす異世界のうち、各登場人物個人持ちの異世界として『デッキ』がある。デッキに入れられているモンスターは全て同じ異世界で暮らすことになり、アニメではモンスター同士の絡みも見どころの一つ。つまり――。


「わう! ぎゃうう! ぐるるる……」


 動物用に拵えた鎧で武装した猟犬が威嚇し、


「悪しき邪龍め! 我らが王を誑かそうとした罪は重いぞ!」


 軽装鎧を身に纏った兵士に槍を構えられ、


「【闇】が再びこの世に現れようと、【光】の前に倒れるが定め!」


 大きな三角帽子を被った善の魔法使いが振りかざした金属製の長杖に光が集まり、


 ……こうなるってワケ。


『……愚かな』


 敵対する気はないんだよなー! ちょっと闇堕ちが見たかっただけで危害は一切加えないから許してくれないかなー。でも【闇】って基本他陣営からめちゃくちゃ嫌われているから無理だろうなー。


 勝つためなら相手を殺す! とアニメではダメージを現実にするのが【闇】の基本戦闘スタイルだし、とにかく長く痛ぶるべく弱体とかの効果をよく使うし、なんなら相手の手札やデッキを削る効果も持っているし……と子供達に嫌われそうな事を詰め込んだのが【闇】。【光】? 墓地に倒れた仲間達をデッキや手札に戻しつつ効果を使うモンスターが多い。



 つまり……どうやっても仲良くできない! そんなー。



「我ら【光輝士】の前に現れたのが運の尽きよ! その首、叩き切ってくれる!」


 【光】の中でも特に武勇に優れた者達を示す分類、それが【光輝士】。ちなみに自分に対して威嚇とか警戒してきたセリフの主は上から順に《仁義の猟犬》、《光輝士団の槍兵 レイ》、《光輝士団の魔術師 ルクス》、《光輝士団の剣兵 ライト》となっています。


「待てお前達! 何をしている!?」


「団長! 危険です、お下がりください!」


 どうしようかなー、手を出したらマジでダメな奴だしなー、と悩んでいたら颯爽と現れたのは【光輝士】のエース、《光輝士団長 ヘブンス》。

 翼のモチーフや蒼い宝玉などが目立つ、いかにも善の騎士です! な印象を与える武装と誰が見てもかっこいいと称する顔の良さを併せ持つ、まさに主人公のエースモンスターだ。ちなみに《光竜輝士団長 ヘブンスロード》というドラゴン要素も取り入れた進化系もあったりする。


「彼は我らが王に認められた味方だ、敵ではない! まずお前達では【黙死龍エクス・ドラゴン】には勝てん! ……武器を下げろ。これは団長命令だ」


「【黙死龍エクス・ドラゴン】……!? ならばこそ、ここで」


「命令違反は厳罰だぞ、剣兵ライト。王に付き従う我らが王の決定に背くことは許されない。それを忘れた訳ではないだろう」


「…………っ、わかり、ました……」


 しぶしぶ、といった感じで自分に敵対していた皆が武器をしまう。……で、【黙死龍エクス・ドラゴン】? なんか知らない単語出てきた。何それ?


「遥か昔、【闇】より産まれ、人の世を乱したというあの【黙死龍エクス・ドラゴン】……」


「そうだとするならばこれ程の禍々しさにも納得がいきます」


 あ、説明の方ありがとうございます。


「伝承にあるのはその名前のみ、姿については一切残されていない。団長、【黙死龍エクス・ドラゴン】だとどうして分かって……?」


「忘れるわけがないだろう。あの【闇黒忌士】達との共同戦線を……」


 えっなんかざわついてる。何言ったの? よく聞こえなかったんですけども。


「……かの恐ろしき邪龍らは力を好き放題に使い、【闇】を広げた」


 己を従えようとした欲深い人間達を逆に操り、多くの国を支配した《死零龍 ズィークントロ》。無より数多の兵を生み出し終わりのない戦乱をもたらした《死虜龍 レギオー》。戦う力を持たない無辜の民へ飢餓という苦しみを与えた《死餓龍 トウテツ》。


 ……おかしい。体験談みたいに語ってるぞこの団長。何か秘密を抱えてらっしゃる? てか何歳?


「そして《死統龍 ヘルシャーロイデ》殿……かの龍は【黙死龍エクス・ドラゴン】の中で最も強く、また――最も慈悲深かった」


 んっ? 聞き間違いかな。自分に対して敬称使った? あと慈悲って何。


「同族の身勝手により世界へ死が満ちることに嘆き、悲しみ、我ら【光】へと力を貸した唯一の【闇】にして【黙死龍エクス・ドラゴン】、それこそ《死統龍 ヘルシャーロイデ》殿。死を統べるもの」


 んん??


「かの封印戦争の最後に全ての力を使い、他の三龍を自分諸共時空の狭間へと封じた、はずだったのだがな……」


 何それ知らん……。


「今こうして《死統龍 ヘルシャーロイデ》殿がこの世に再び現れたということは既に他三体の【黙死龍エクス・ドラゴン】は封印を解き、人の世へ降り立ったのだろう」


 騒つく【光輝士】たち。当然だ、【光】としては【闇】が世界を乱すなど見逃せない。

 静かに、と《光輝士団長 ヘブンス》が皆の動揺を鎮める。


「だからこそ《死統龍 ヘルシャーロイデ》殿は【光】を使う我らが王へ己の依代たるカードを授けた――に!」


 助けて! 何も言ってないのに話が進んでいくんですけどぉ!

 しかもこれから始まるのは世界を救う戦い、みたいな空気感になったことで【光輝士】のテンション爆上がりになっちゃった……。



 というか……えっ?

 もしかして自分、設定から既に【闇】の中でも最も闇堕ちから遠い存在なのー!?

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