02 ニンジャとサムライ、どっちがつよいの?

「で? 神奈川ヨコハマ併呑は結局いつになるんよ?」


 広々とした執務室の中、革張りのソファに深く沈み込んだ老人が、茶をすすりながら言った。


町田カナガワの領土問題を片付けてからだ」


 黒檀と大理石が鮮やかな巨大な机で、都知事、松平龍太郎が答えた。


「一週間もして五輪が始まればようやく、日本と休戦期間。半年だ。そしたら町田カナガワにケリが付けられる。それでようやく、第三期拡張工事に入れる。神奈川ヨコハマはその後だ。だからまあ……相当後だよ」

「なんでもいいんだがよ、次に警士庁サムライレギオンを作るなら定年を」


 会話は突如、そこで止まった。執務室のドア、その少し上を不審そうな目つきで眺める両者。


「……宮武」

「おうよ」


 立ち上がる老人と、映像手前にあらわれるすらりとした手足。黒とオレンジのスーツに包まれた手にはなぜか、手錠がはめられている。どうやらこの映像は里咲の主観視点らしい。


「……疾靴テックス……じゃねえな、なんだ? このどすけべな格好の姉ちゃんは……?」


 老人が呟いた瞬間、里咲の背後から飛沫を散らす大波のように黒装束の集団が飛び込んできた。十人の黒装束は部屋に着地すると、手にしたサプレッサー付きの拳銃で一斉に、都知事を狙って引き金を引く。ぱしゅ、ぱしゅぱしゅぱしゅ、どこか気の抜けた音が連続して響く。




 だが対する音は一つ。




 老人がかき消え、黒装束たちと都知事の間に立ち塞がっている。発射された弾丸のウチいくつかがはじかれ、床のラグにぷすぷす、穴を開けた。




「……なんの忍術を覚えやがった」




 凄絶に笑う老人、警士庁サムライレギオンギルドマスター、警士大将マスターサムライ宮武逸心みやたけいっしん。無刀で、私服。しかし、軽く手を振ると黒装束の一人がどさり、力なく倒れる。頭に穿たれた穴からこぼれる血と脳漿が床のラグを汚す。さきほど放たれ、止めきれなかった弾丸を老人が手ではじいたものが当たった……いや、当てた。


弾丸忍者衆キャノンボールニンジャか?」


 都知事が机裏のスイッチを強く押し込みながら言う。その間にも、ぞろぞろ、空間から黒装束があらわれ、そう広くもない部屋の中に増えていく。宮武がいることは予想外だったのか、動作が少し固まっている。リサは動いていないのか、映像の視点はぶれない。


「……宮武、まずい、回線が切られてる……有線も無線も、非常発令機構が反応しない……!」

「……お前なあ、都知事閣下ミニスターサマがそんな情けねえ声出してんじゃねえよ。ここにいるのを誰だと思ってる? 東京都最高戦力、四刀流の宮武逸心さまだぜ……無刀無鎧だが……居合わせた幸運と併せりゃ行って来い、ってか。さて、そんじゃま……」


 武装した二十一人の忍者と一人の謎の女に囲まれながらも、宮武はおかしそうに笑った。




「ニンジャとサムライどっちがつええか、またやってみようじゃねえの」

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