【実録黒歴史】転生巫女は暗殺特殊部隊の女隊長に進化する

夢咲咲子

これは本当にあった(ことが)怖い話。かもしれない

『黒歴史放出祭』への参加を機に、わたしはカクヨムにユーザー登録をした。これは自分の闇深い過去を語り、供養する絶好の機会だと思ったのだ。

 


 ――あれは、わたしの小学三年生の新学期のこと。体育館で全校朝礼を終え、新しい教室にソワソワ戻る生徒の中に、わたしは彼女たちを見つけた。


 蘇るは、遥か昔……前世の記憶。東の国で悪霊を祓い人々を守る宿命にあった三人姉妹の巫女。わたしは再会の喜びに震えながら、かつての姉と妹に声を掛けたのだ。


「あのね……わたし達、前世で姉妹だったんだよ。現世でも悪霊退治を一緒に頑張ろうね!」

 突然そんなことを言われた彼女たちは、ひどく驚いていたのだろう。が、あの頃のわたしは、あまり。ただ幸いなことに、女子小学生にはわたしの空想話はある程度魅力的に見えたようで、彼女たちはわたしの姉と妹になってくれた。


 長女シャオラン(テーマカラーは緑)、わたしこと……次女シャオリン(テーマカラーは水色)、三女シャオルン(テーマカラーは黄色)。

 わたし達は昼休みや放課後になると、悪霊との戦いに明け暮れた。例えば――二宮金次郎像に宿る悪霊を図書室に追い詰め、台本版を投げつけて攻撃した。霊力を高める修行のため、誰もいない階段の踊り場で、聖なる石ビー玉に祈りを捧げた。

 表向きにはただの小学生だが、裏では人々を守り戦う戦士巫女。わたし達は忙しい日々を送っていた。シャオランとシャオルンは自ら前世の思い出を語ることは無かったが、わたしの話にポカンとしては目を見合わせ、ニコニコ聞いてくれた。


 過酷だが穏やかな姉妹の日々。それはわたし達が小学四年生に上がり、クラスが変わると共に変化を見せる。シャオランとシャオルンの前世の記憶が薄れ始めたのだ……。わたし達は三人一緒に居ても、アニメや漫画の話、学校の話しかしなくなっていった。彼女達は普通のHちゃんとYちゃんに戻ったのだ。悲しいが、現世で二人が平和に、幸せに暮らせるならそれでいい。

 わたしの霊力も薄れたのか……次第に悪霊を感知することが出来なくなっていった。


 かくして、わたしの転生巫女としての戦いの日々は終わりを告げた。わたし達が戦わなくなっても世界は平和で、適度な事件に溢れていた。



(――で、終わったと思うでしょう? 違うんです)


 次なる覚醒は中学一年生。他の小学校から上がってきた初対面の生徒も多い中、最初のホームルームの自己紹介で、わたしは名乗った。裏社会で名乗るコードネーム……“夜月やづき さく”を。

 現世でのわたしは、暗殺特殊部隊の女部隊長になっていた。クラスの班で持ち回りで書く日記(班ノートと言い、担任にも提出するもの)に、わたしは部隊の隊章やイケメン部下のイラスト・設定を詳細に書き綴った。

 わたしの描いたイラストは、漫画好きの男子女子を中心に好意的に受け入れられた。(いわゆる陽キャのオタクが多かったクラスで、皆でアニメの台詞を叫び合うような環境だった)

 担任もクラスメイトも皆、わたしの事を「朔!」と親しみを込めて呼んでくれた。(思春期の男子には苗字で呼ばれたが)



 高校生になると、流石に裏社会の事情を人前で話すことは無くなったが……結局、わたしは社会人になった今でも、本質的には何も変わっていない。わたしは時に巫女であるし、時に女部隊長であるし、異世界に迷い込む少女だ。



 ――『黒歴史放出祭』。こうして改めて文章に起こすとそれは、思ったより輝かしい。ピカピカに磨いた泥団子みたいだ。恥ずかしいと悶えるよりも、世界の温かさが染み入る。わたしはわたしのファンタジーを守ってくれた周囲に支えられて、今もここに居るのだろう。ありがとう、現実世界。君は思ったより優しいね。


 だが。

 中学生の頃、喧嘩になった時……「ホントは部下なんて居ないくせに」と言ったあの男子だけは――許さないぞ。

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