【アレンジ童話】小鳥たちの小枝会議

にっこりみかん

イソップ物語「器量良しを自慢し合うツバメとカラス」より

「おや、これはこれはツグミさん、こんにちは」


「あ、そういうあなたはツバメさん、こんにちは」


 ツバメとツグミは、どちらも渡り鳥です。


 ツバメは暖かくなると現れ、ツグミは寒くなると現れます。


 なのでお互い、ほとんど出会うことがありませんでした。


 そんなツバメとツグミが、たまたま同じ木の枝にとまり、

 久しぶりに顔を合わせました。


 ツバメとツグミは何気ない話を始めましたが、やがて、お互いの行動範囲の話になりました。


「ツグミさんはいつも北の方へ行きますけど、絶対、南の方がイイところですよ」


 と、ツバメが言うとツグミは答えました。


「そんなことないよ、北の方が絶対いいよ、南には絶対行きたくないね」


 ツバメは、


「南の良さが分からないなんて、可愛そうに、花はキレイだし暖かいし、いいことばかりじゃないですか」


 ツグミは答えます。


「いいえ、北の方は空気が澄んでいて、いくら飛んでも涼しい風がここち良くて気持ちいところだよ」


 と、お互い、北と南の良いところを言い合いました。


 そこへ、たまたま通りかかったスズメがとなりの枝にとまり、なんとなく二羽の話に耳を傾けました。


「なにを言っているの、北の方なんて、凍えそうに寒いし、景色は白っぽいし、まるでいいところなんてないじゃないですか」


「いいや、南の方こそ、暑くて暑くてかなわないし、花の色とかもう、目がチカチカして落ち着かないったらないよ」


「まったく、そんなこと言って、南の方の良さが分からないんだから」


「あんたも、北の良さを全然分かってない!」


「絶対に南の方がイイです」


「いや、絶対に北だ!」


 そう言って、ついにツバメとツグミは怖い顔でお互いを睨み始めました。


 スズメはキョロキョロを二羽の顔を眺めていました。


 二羽は睨み合った状態のままで、ツバメが目をツグミから離さずに言いました。


「そうだ、スズメさんがちょうどそこにいる、聞いてみれば分かります」


 自分の名前が出て来て、スズメは“ドキッ”としました。


 ツグミも目をそのままに、


「そうだね、スズメさんに聞いてみよう」


 と、二羽は同時にスズメの方へ目を向けました。


 何気なく会話を聞いていただけなのに、いきなり二羽に目を向けられたスズメは目を丸くしました。


(なんで、私?)


 と思いながらも、


「えーと……、」


 と、一回はぐらかしてから、とっさに思いついた言葉を言いました。


「どっちも、どっち……、かなぁ」


「なんですって!」

「なんだって!」


 二羽の目つきは一層厳しくなり、スズメに向けられました。


(こ、怖すぎる〜)


 ひるみながらもスズメは早口で答えました。


「いや、あのね、私はここにずっといてね、夏は暑すぎるとイヤだし、冬は寒すぎるとイヤなの」


 夏がイヤと言ったらツグミが頷き、冬がイヤと言ったらツバメが頷きました。


 スズメは二羽の顔色を伺いながら、


「でも、夏は水浴びなんかすると、スカッとして気持ちいいし、冬は日向ぼっこなんてポカポカで眠くなっちゃうくらい最高なの。そんな風にね、楽しいことを見つけてね、辛くてもなんとかやり過ごしてここで住んにるの」


 話を聞いているうちに、鋭い目で睨んでいたツバメとツグミの目が少し変わったのをスズメは感じました。


 スズメは、自然な口調で続けました。


「だって、私は、この場所が好きだから、北にも行かないし、南にも行かない。この場所から離れない。好きだから、いる。ただ、それだけ」


「あ、」


 結局、なんだかんだでアチコチ移動しているツバメとツグミは、何か言いたそうな顔をしましたが、なにも言わず、気まずそうにお互いの顔を見ました。


 でもすぐに、プイッと、お互いそっぽを向きました。


 顔を合わせない二羽をスズメは交互に目を向けてから話かけました。


「ねぇ、話を聞かせてよ」


 二羽はスズメに顔を向けました。


 スズメは続けます。


「私は、ずっとここにいるから、北のことも南のことも知らないの。だから、どんなところか、どんなに素晴らしいところか、あなたたちの話を聞きたいの」


 キラキラと目を輝かせてスズメがいうと、ツバメとツグミはお互いの顔を見て、お先にどうぞ、と譲り合う仕草を見せてから、じゃっ、とツバメが話を始めました。


「南の方は、とにかく花がキレイなんですよ……」


 と、ツバメが南のイイところを話し、次にツグミが北の素晴しい話を始め、その後は交互に話しをしていきました。


 スズメは、聞くこと聞くことが珍しいことばかりだったので、「へぇー」とか「そんなところなんだー」と感心しながら聞いたので、ツバメもツグミも饒舌になり、お互いの場所のイイところを話ました。


 話が進むにつれ、ツバメとツグミもそれぞれの場所のイイところに興味を持ち始め、二羽の間から険悪な感じかなくなってきました。


 そして、ある程度話したところで、


「ところでスズメさん」


 と、ツグミがスズメに問いかけました。


 突然聞かれて、スズメがキョトンとしていると、


「スズメさんは、暑い夏も、寒い冬も過ごせるみたいだけど、なんでそんな丈夫な体を持っているの?」


「あ、それ聞きたいです」


 ツバメも興味深々と言った感じで前のめりになりました。


 スズメは二羽の顔を交互に見てから、


「なんでだろう……」


 と、小首を傾げてから、


「自分でもよく分からない」


 と、神妙な顔をしました。


 そんなスズメの姿を見て、ツバメとツグミは楽しそうに笑いました。


 なぜ笑われたか分からないケド、二羽が笑っている顔を見て、スズメも楽しそうに笑いました。


「ねぇ、今度はスズメさんの話も教えてよ、離れたくないほど、ステキなここのことを」


「いっぱいあるから話すと長くなるよ」


「うん、いいよ」


「えーっと、それじゃねぇ───」


 枝の上での小鳥たちのお話は、この後も、しばらく続きましたとさ。




 おしまい

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