第18話 予言というには生々しい
「先回りしていうとね、トゥルーンはもうすぐ戦争に巻き込まれるわ」
「それは予言ですか?」
「そうね。そう解釈して問題ないわ」
ちょっと考えてからイヴォンヌはうなずく。
どう説明するのが良いか言葉を選んでいるような感じだった。
「ゲーム世界なんていっても理解できないでしょうし」
「はい。普通に理解できません。ゲームというのは盤上遊戯みたいなものですか?」
「似て非なるものよ。あんまり気にしなくて良いわ。わたくしは何度か同じ時間を繰り返している、くらいの解釈で大丈夫よ」
「すごい。なにが大丈夫なのかさっぱり判らない」
ツッコミはするけど、私は軽く頷いて先を促した。
同じ時間を繰り返しているとか、頭おかしい人の妄想みたいだけど、そこを否定しちゃうと話が一歩も先に進まないからね。
「攻めてくるのはランバード王国とルメキア帝国」
「北と南から同時にってことですか」
「さらに、東部の国民たちが反乱を起こすわ」
もちろん仕組まれたものだとイヴォンヌは肩をすくめた。
軍事はさっぱり判らない私だけど、さすがにそれはトゥルーン王国が負けちゃうんじゃないかなってことくらいは判る。
「それはかなりまずいんじゃないですか?」
「まずいというか普通に負けるわね。序盤はまだなんとか戦えていたけれど反乱が起きてからはボロボロで、最終的に王都コーヴは陥落するの。国王は処刑され国土はランバードとルメキアに分割支配されるわ」
もちろん殺されるのは王様だけじゃない。
主だった貴族は殺されるし、その子女も同じ運命をたどる。
「わたくしは敵兵に囚われ、数日にわたって陵辱されたあとに処刑されるの」
「うっわ……」
戦のならいとはいえ壮絶だ。
敵兵に侵入されちゃった町や村の女がどうなるか、というやつである。
「コーヴの悲劇は、でもひとりの
「なんと……」
家族も恋人も家も、何もかもを奪われた青年騎士ロベールが力を蓄え、仲間を集め、数年の歳月をかけてランバードとルメキアの支配からトゥルーンを解放するらしい。
「それって私は死んでるんでしょうねぇ」
しみじみと呟いてしまう。
殺された恋人ってのがたぶん私のことなんだろうね。
物語でいうなら、名前すら登場しない脇役である。
イヴォンヌのように死に様が描写されるよりは、すこしはマシってことなのかな。
「ていうかイヴォンヌは、自分が殺された後のストーリーまで知ってるんですね?」
「まあそこから話がスタートするからね。何十回も繰り返してるって言ったでしょ」
何十回も死んでるのか。この人。
「ロベールがキーになることは判っていたからね。とっとと出世させて兵権を握らせようと思ったのよ」
大将軍とかになってしまえば、王国軍を動かすことができる。
滅びた状態から国を奪い返すのではなく、そもそも滅びさせないためにロベールの才能を発揮させようとしたわけだ。
手としては悪くない、というか、黙っていたら滅亡すると判ってるんだから、なにか手を打つのは当たり前。
婚約者を奪われたのは業腹な事態ではあるんだけど、じつはもう怒ってないんだよね。
不思議とイヴォンヌを憎む気になれないんだ。
「ところが、なぜかメグが台頭してきた。白騎士レオンもね。まったく計算外の要素だったのよ」
「何回も試行錯誤を繰り返したのでは?」
「ゲームより前の部分だもの。試行錯誤もへったくれもないわ」
よく判らないことを言って、ふんすとイヴォンヌが鼻息を荒くする。
「それにまあ、ロベールよりメグを気に入ったってのも事実よ」
「不憫なロベール……」
扱いが悪すぎるね。
いい気味だ。
「そして、ここからが本題なのだけどね。メグ」
「一緒にトゥルーンを守らないか、ですよね?」
「ご名答」
にやりと悪役令嬢が笑う。
どうやら今は彼女が知っている
ロベールを私から奪ったことで変わり始めたんだろう。そしてその流れにイヴォンヌは乗ることにした。
私を騎士叙勲なんてのは、その最たるもの。
「具体的にはなにをするんです?」
「ロベールにはランバードを、レオンにはルメキアを撃退してもらうの。そしてわたくしたちで東部住民の反乱を防ぐ」
三ヶ所を同時に対処するってことか。
そんなことできるのかな?
いや、できるかじゃなくてやるしかないのか。
厳しい気がするけど……。
「国王陛下に備えをお願いするという手は使えないんですか?」
「王女カサンドラ以降、敗北の予言をするものは信じてもらえないわよ」
また知らない名前が出てくるし。
イヴォンヌの世界の伝承とか歴史とか、そういうやつなんだろうな。きっと。
「それに、悠長に国王陛下の裁決とか待ってられないし」
「侵攻まで時間がないってことですね」
「そう。年明け早々には攻め込んでくるわ」
「半年もないじゃないですか!?」
思わず声を高める私だった。
いやいや。
間に合うの? それって。
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