第12話 ライバルと親友って同じ意味だっけ?
「そもそも、どうしてうちをイヴォンヌさまが知ってるんですか……」
「ロベールから聞き出したわ」
うっわこの女、最悪だ……。
私を捨てたロベールがどうなろうと知ったこっちゃないんだけど、元婚約者の家を吐かされるというのは、なかなかの苦行だったろう。
同情する気はないんだけどね。
いい気味だ。
じゃなくて、無茶なことをする令嬢である。
「顔に出てるわよ。メグ」
くすくすとイヴォンヌが笑った。
「本当はロベールも連れてくるつもりだったの。どういう婚約の解消の仕方をしたのかまでは聞いてないのだけれど、もし失礼なことを言ったのなら謝った方が良いんじゃないかと思ってね」
「いえ、べつに失礼ってことはなかったんですよ。家柄が合わなくなったから婚約を取りやめようって言われただけですから」
悔しかったけどね。
十四騎士も騎士も、騎士は騎士じゃないかと言いたかったけどね。
「さすがに気まずいんでそれだけは勘弁してくれっていうから同行してもらわなかったけどね」
「それは良かったです」
私だって、どんな顔してロベールに会えば良いか判らない。
まして、今の恋人であるレオンと顔を合わせるのは、幾重にもばつが悪いだろう。
そう思ってレオンの方を見たら、イヴォンヌを案内してきた我が家の使用人とともに退室しようとしていた。
「どちらへ? レオ様」
「いや、邪魔するのも悪いし帰ろうかと……」
目が泳いでる。
こいつめ……。
「邪魔だなんてとんでもない」
にこにこと笑ってみせる。
逃がすかよ。
「どうぞお座りくださいな」
「いや……」
「お座りなさないな」
「……はい」
諦観しきった顔って元の席に戻るレオンだった。
やりとりを、イヴォンヌが吹き出す寸前の表情で見守っている。
私は使用人に三人分のお茶とお菓子を用意するよう頼み、イヴォンヌと向き合った。
「歓待してくれるってことは、わたくしもあなたたちの計画に噛ませてもらえるってことでいいのよね」
ため息をつき、私は頷いてみせた。
ここまできて知らぬ存ぜぬは通らないだろう。
「計画ってほどのものじゃないですけど、いつ気がついたんですか?」
今回の件で私のところまでくるというのは、尋常な推理力じゃない。
白の騎士団と、ヤクザ者と、商店街と、私。
これらが一本に繋がらないといけないわけだからね。
「半分はロベールの推理ね。ルグラン家に縁のあったパティシエが件の商店街に店を構えている、と。そしてメグというのは、そういう人物の危急を黙って見ているような娘ではない、と」
騎士団の行動と私の性格、このふたつのフラグメントが指し示しているのが、両者の協力関係だ。
「なるほど」
苦笑する。
私を捨てたロベールだが、人格の部分はそれなりに買ってくれていたみたいだね。
「は。奴にメグのなにがわかる」
小声でレオンが吐き捨てた。舌打ちまでしてるし。
むしろあなただって私のことを何も知らないですよね。
お付き合いしている、ということにはなってるけど、実際は一緒にお菓子を食べに行くだけの関係だし。
「レオン様。男の嫉妬はみっともないですわよ」
「うぐぐぐ……」
なにがうぐぐだよ。
天下の白騎士さまが、悪役令嬢にたじたじじゃないか。
結論から言えば、イヴォンヌの申出を私たちは受け入れた。
そもそも断る理由がない。
商店街を宣伝する人材としては、騎士の娘よりも伯爵令嬢の方がずっとずっと箔がつくからね。
ただ、そういう計算をしなくても押し切れてしまっただろう。
初めて会ったときも思ったけれど、とにかく押しが強い人物なのだ。
でも、不思議と不快じゃない。
組んで何かをやらかしたら、きっとすごく面白そうだと思ってしまう。
「ともあれ、宣伝するにしても現地を見ておかないとね。次の休息日にでも案内してくれる? メグ」
ていうかいつの間にか愛称で呼ばれちゃってるなぁ。
いまさら訂正するのも奇妙なもんだし、いいんだけどさ。
「次の休息日はレオ様とデートなのですが」
「いいじゃない。ダブルデートとしゃれ込みましょう」
「うわぁ……」
とんでもないこと言い出すし。
商店街は、伯爵令嬢と白騎士と十四騎士のひとりを迎えないといけないわけだ。
ベルトラン卒倒しちゃうよ。
私としても、ロベールと顔を合わせるの気まずいなぁ。
「ていうかイヴォンヌさま。前にあったとき
「好敵手とは親友と同義なのよ? メグは知らなかったの?」
知るわけがない。
そんな法則、聞いたこともないよ。
「ロベールにとってもライバルと親睦を深める良い機会だしね」
「叩き潰してしまっても良いんだろう?」
「わたくしが見込んだ殿方は、簡単に潰されませんわよ」
「であれは、芽ははやいうちに摘むべきだろうな」
肉食獣の笑みをうかべて睨み合う白騎士と伯爵令嬢。
怖いよ。
なんなの? この人たち。
「商店街でケンカなんかしないでくださいね。レオ」
そんなことやったら、二度とお菓子なんか作ってあげない。
という意思を視線に込める。
「しないしない。メグは心配性だな」
はっはっはっと笑うけど、レオンの頬に一筋の汗が伝った。
こいつ、あわよくばロベールを叩きのめそうとか思ってたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます