六度目の目覚め
これで夢を見るのも三回目になる。
今俺がいるのは、大層広い部屋の一段高くなっている場所。視界の
俺は玉座から立ち上がり、片手をスッと顔の高さにまで上げた。ゆったりとした黒い衣を纏った武骨な造りの手が俺の視界に入る。意外なことにその手の爪はきれいに磨かれていた。まるで誰かに毎日手入れをさせているかのようだ。その手の指には豪華な指輪が幾つもはめられていた。
その合図で広間がシンと静まりかえる。程なくして、大皿の乗ったトレーが給仕の少年達によって運ばれてきた。大皿の上には何かの動物の丸焼きが。
その動物は見たところ元々食用とされているものではないようだ。焼き目を付けられたそれはいかにもか弱そうで、食べるところなど大して無さそうだった。おそらくこれは食べることを楽しむためのものではなく、これを食べるという行為そのものに意義がある、呪術的な要素を多分に含んだものなのだろう。
俺は何かを二言三言呟いた。すると俺の手の中に一振りの剣が握られた。ずしりと重い確かな金属の質感。それを感じ、改めて剣の柄を握り直す。そのままつかつかと動物に歩み寄る。剣を振り上げ、俺は動物を切り分けた。切ったところから赤い肉汁が溢れ出し、白い皿を汚した。
目が覚めると目の前に一人の少女がいた。白い粗末なワンピース。それ以外は何も身に着けていない。伏し目がちな、か弱い少女。
少女が一連の儀式を行う間、俺はじっと少女を見つめていた。今日はもう無駄な抵抗はしない。そう、無駄な抵抗は。
「あの頃に帰りたい」
盆を持つ少女にそう言ったところで少女は何も答えないだろう。そしておそらく、少女がいる限り俺はこの状況から抜け出せない。
だから、お前には消えてもらう。
腹の奥底から込み上げる燃えるような怒りに任せ、俺は両腕にありったけの力を込めて引っ張った。
ブツリ。
まぬけな音を立てて、鎖はいとも簡単に千切れた。何故もっと早くこうしていなかったのだろうか。千切れた鎖は壁に打ち付けられてジャラジャラと空しい音を立てる。
少女はその音にハッと振り向いた。だが何故かその目は俺を捉えない。少女は、俺の姿を探せない。
俺は夢で見た言葉を呟いた。すると俺の手の中に一振りの剣が握られた。ずしりと重い確かな金属の質感。それを感じ、改めて剣の柄を握り直す。そのままつかつかと少女に歩み寄る。剣を振り上げ、俺は少女を突き刺した。刺したところから赤い血液が溢れ出し、白い服を汚した。
その瞬間、俺は戦慄した。込み上げる恐怖。
……恐怖? 何故?
剣を抜く。その時俺は、その場にゆっくりと倒れていく少女と目が合った。その目は今まで見たこともないような色。空と海と大地、死にゆくものと命を持たぬもの、ありとあらゆる感情、その全て。この世界そのものを、全て全て混ぜ合わせたような色。
「終われないの。あなたも、私も」
崩れ落ちる少女。だがその体が地面に倒れ伏すよりも早く、俺は膝から崩れ落ちた。
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