本文 6 (サブタイトルを付けてみた、詩人のショート・ショート)

   ………


 この【本文 6】と言う簡素なタイトルはあくまでこの文章が【バッファロー。その思念。】の本文であることを意識させるための文章なのだが、ユーザーフレンドリーでないので、サブタイトルを更に付け加えることにする。

 流石に何もないでこんな滅茶苦茶な文章をぶつけまくるのはよくない。私は読者に対しては積極的に媚びていくつもりなのだ。読んでもらうためにはそう言う姿勢が大事。そもそもプライドとかないので初めから読者の靴をべろべろ舐めていく、ほら、そこの君も靴を差し出しなさい、私が舐めるのだ。おら、寄越せっ!

 ぺろぺろ……あ、更新止まってごめんね。詫びとして下に短編書いたから読んで。


     ―――


 学術の都レルポイの詩人ヴィクトリウスはケントゥリオ山のヤーヴ神殿に駆け込み、息も絶え絶えに、祭壇にて膝をつき、像なきヤーヴの神に訴えた。

 

 「全能なる主よ、畏れ多くも我は訴え求めたる。主の集めたる詩人の中に我が名ヴィクトリウスを入れたまえ」

 

 その訴えは三日三晩、精魂尽きるまで続いた。

 声も枯れはて、生命も消えかけ、身体をもたげることができなくなろうとも、なお、ヴィクトリウスは訴えを止めず、呼気となった言葉を編み出さない音を、虚しく神殿に響かせた。

 そして、ヴィクトリウスの瞳が静かに瞑られたとき、全能なるヤーヴがその傍にて彼の訴えに応えた。


 「レルポイの詩人、ヴィクトリウスよ。何故にそのような訴えを起こす」


 ヴィクトリウスの魂は答えた。


 「わたくしはレルポイの街にて詩を謡い、人よりも多くの詩を作って来た者でございます。今までわたくしの詩はどんな恩賞も得ることは能わず、そのことを普段は気にせずとも、夜半うなされる日々を過ごしてまいりました。ですがこの度、全能なる主の御心によって町の全ての詩人を認め、その詩を一人一人がこの神殿で諳んずる祭りがあると聞き入れ、その祭りに参加すべく、わたくしは神官に我が名をしたためた書簡を送ったのでございます……ですが、先日、神官の長が亡くなったことで祭りの方法が変わり、神官の認めた詩人のみが祭りにて詩を謡う事となったのです。わたくしは普段より詩のみを一心にしたため、諳んじてまいりました、詩を謡うことに関しては街の他のものよりも一日の長があると自負しておりました。ですがわたくしは書簡を返され、放逐され、祭りで認められた者は詩を謡わず学術に秀でたる者ばかりでございます。これは全く、祭りというものを無視している、そう、わたくしは思ってしまったのでございます。そして全能なる主なればこのわたくしの訴えを聞き入れると思い、命を懸けて訴えを行ったのでございます」


 ヤーヴは先程と変わらぬ調子で答える。


 「詩人を選ぶのは神官の仕事。ヴィクトリウスよ、お前はその神官を憎むか」


 「いいえ、神官の認める詩人や学者を貶めるとも憎むとも思っておりません。ただ、わたくしはこの神殿で祭りの中、全ての詩人が謡うという以前の祭の約束が変わり、詩の巧拙を問わなかったことに悲嘆したのみでございます」


 「確かに神官の約束の反故は律法として感心しないことである、だがお前は反故にされたことを憎むわけでも、それ自体を訴えるわけでもなく、ただ自らの詩を聞き入れてほしいと願っているのだな」


 「はい、わたくしはわたくしの詩を祭りで謡いたいだけでございます。他の詩人もまたそう願っていることは分かっております。ですが、わたくしは、この街の詩人の誰よりも詩を作り、誰よりも薫陶を得られずにおります」


 「それは我が目にも映っておる。お前の言う事は正しい。だが、既に祭りは終わった。既に詩人は決まった。決まった後に訴えようとも、それは終わったことだ」


 「ですが、わたくしは」


 「お前の命が尽きようと、お前の心が壊れようと、お前よりも多くの者がここに居る。お前を優先することはできない」


 「であれば何故、初めに祭りは全ての詩人の詩を聴くと仰られたのですか。わたくしは詩人の資格は得ております。認められております」


 「お前は我が言葉に嘘があったというのか、我が命じた祭りの約束に嘘があったというのか」


 「初めに仰られたことは、現実に起きてはいません」


 「『詩人』とされる者は神官が決め、我はそれに賛同した。我が決め、神官と民がそれを受け入れた、むろんお前も当初は受け入れた」


 「受け入れてなど」


 「ではなぜ規定が変わった際に言わなかった」


 「それは、当初の規定を重んじ詩人としての才で参加を決めると」


 「お前がそう思い込んでいた。そうでなかったために後から訴える。なんと浅はかで自分勝手な、恥を知れ」


 「……」


 「お前は怠け者だ。学術を修めなかった。学者が詩を作る。それでよいのだ。詩ばかりで何の薫陶も受けられない、お前は怠惰なのだ」


 「……」


 「分かったのならば神殿を出よ。そして学べ」


 祭壇の前で目を覚ましたヴィクトリウスは祭壇に報じられている書簡に気づいた。祭りで謡う、詩人と学者の名の入った書簡である。それは色とりどりの果実に囲まれ、祝福されていた。

 ヴィクトリウスは祭壇の果実を空腹から、奪おうかとも考えた。祭壇の書簡を怒りから破り捨てようかとも考えた。

 だが、彼はそのまま覚束ない足取りで自らの棲家とする壊れかけた樽へと帰っていった。彼は祭りにも、取り決められた祈りの日にも、二度と神殿に訪れることはなかった。

 ヴィクトリウスの詩は祭りに参加した詩人や学者に好まれていたものだった。学者たちや詩人たちは彼の友人で会った。ヴィクトリウスは善良さから人々から愛されていた。

 気を病んだ彼を心配し、詩人や学者たちは祭りには参加しなかった。

 街の人々は気を病み、そして、三日三晩の訴えから病に伏せた気の優しく、高潔なる友人を手厚く皆で介抱した。それは長く続いた。

 その間神殿には寄付も、礼拝も、訴えさえもなかった。

 ヴィクトリウスが死ぬ頃、神殿は荒れ果てた。

 ヴィクトリウスは死に際に神殿で祝福されるのではなく、皆で自分の詩を謡い、送ってほしいと頼んだ。

 街の人々は驚きつつも、理由を答えぬ彼を信じ、彼の葬儀は彼の詩で執り行われた。彼の墓所は街の中心に造られ、謡われた詩に、残された詩は何年も残り続けた。

 寂れた神殿は誰も寄り付かなくなり、神官は去り、何時しか忘れ去られた。


     ―――


(続く)

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【KAC20241+】バッファロー。その思念。 臆病虚弱 @okubyoukyojaku

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