第70話 観雫は名前で呼んで欲しい
「っ……!」
俺に姉と呼ばれた観雫は、何故か顔を赤くした……自分で呼んで欲しいと言ってみたものの、実際に呼ばれると少し恥ずかしかったんだろうか。
「どうかしたのか?」
そんな疑問を抱きながら俺がそう聞くと、観雫は言った。
「どうかしたのか?じゃないから!い、今、私のこと香織って……」
そうか……今まで観雫と呼んでいたのに、突然下の名前の香織と呼ばれたことに驚いていたのか。
だが、それならしっかりと理由を説明することができる。
「あぁ、姉として呼ぶんだったら苗字なのも変だと思ったんだ」
そう説明したが、観雫は怒っているような恥ずかしがっているような顔と声音で頬を赤く染めながら言った。
「だからって不意打ちで好きな人から下の名前呼ばれたらドキッとするから!」
「そ……そうか、悪かった」
そう言われると、確かにもう少し配慮するべきだったと反省できるな。
俺がそう思っていると、観雫は言った。
「……ねぇ、今度は姉さんって付けずに香織って呼んでみてよ」
当然それは構わないが────
「……さっきの話を聞いてからだと、少し緊張するな」
「いいから!早く呼んで!」
別に観雫のことを下の名前で呼びたくないわけではないし、むしろ下の名前で呼ぶと今までよりもより関係性が深まったことを表面的なものでも実感できるから、それは良いことなのかもしれない。
俺は、観雫に言われた通りに今度は姉さんと付けずに観雫の名前だけを呼んでみることにした。
「香────」
俺が香織、と観雫の下の名前を呼ぼうとした時、観雫は右手を俺の方に突き出して言った。
「待って!ちょっと待って!やっぱりもうちょっと待って!」
「は、はぁ?」
俺がその観雫の様子に困惑していると、観雫が大きな声で言った。
「心の準備がまだなの!だからもうちょっと待って!!」
「……わかった」
俺がそう言うと、観雫は安堵したように俺の方に突き出していた右手を自分の胸に当てて、心を落ち着かせている様子だった
普段落ち着いている観雫のこんなところを見られるのは、本当に貴重だ────いや、もしかしたら今後は貴重じゃ無くなるのかもしれない。
普段の落ち着いた一面も、今のような可愛らしい一面も含めて────
「香織」
「っ……!!」
香織はとても顔を赤らめると、大きな声で言った。
「わ、私まだ準備できたって言ってないのに!!」
しまった……香織のことを考えていると、ついその名前を口に出してしまった。
「わ、悪い、つい……」
俺がそう謝罪すると、香織は「もう……!」」と言って一見怒っている様子だったが、その反面よく見てみるとどこか嬉しそうな顔をしていた。
────すると、いつの間にか席を立ち上がっていた結深が、俺の後ろにやって来て言った。
「さっきから二人だけでイチャイチャしてずるい!私もお兄ちゃんとイチャイチャしたい〜!」
叫ぶようにそう言った結深に対して、俺は結深の誤解を解くために言う。
「お、俺たちはイチャイチャしてたわけじゃない」
俺がそう言うと、香織も続けて口を開いて言った。
「うん、そうだよ?結深ちゃん、私たちはイチャイチャしてたわけじゃ────」
俺と同じようにその誤解を解こうとしている香織だったが、結深はその香織の言葉を遮って言った。
「あんなに二人で付き合い立ての恋人みたいなことしといてイチャイチャしてないは無理だから!だからお兄ちゃん!早く私ともイチャイチャして!!」
「え!?」
その後、俺は結深に腕を組まれたり、抱きしめられたりして少しの間時間を過ごした。
結深のあまりの勢いに困惑した俺は香織に助けを求めようとしたが────香織は「落ち着くまで待つしかないね」といった表情をしていたため、俺は半強制的にその少しの間結深とイチャイチャして過ごした。
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