第69話 結深は決めた
「……え?結深ちゃんに?」
今までの話の流れを覆すような俺の言葉に困惑した様子の観雫だったが、俺はその聞き返しに頷いて言った。
「あぁ……俺たちで話し合っても、互いに兄、もしくは姉になりたいと考えてるからきっと平行線になる」
「そうかな?」
観雫はその俺の言葉だけを聞いてもピンと来ていない様子だったので、俺は頷いて言う。
「そうだ、仮に論理的な理由で俺の方が兄に適しているという結論に至った場合、観雫はそれを受け入れてくれるのか?」
俺がそう聞くと、観雫は首を横に振って言った。
「ううん、だって私が一入の弟なんて絶対変、一入の方が私よりも抜けてて子供っぽいから」
抜けていて子供っぽい……まさかそこまで言われるとは思っていなかったが、俺はひとまずそのことは置いておくことにして話を続ける。
「それなら、最終的には俺と観雫でどんな話し合いをしてどんな結論に至ったとしても平行線になるってことだ」
俺がそう言うと、観雫は小さく頷いうて言った。
「確かにそうかもね……それなら、一入の言う通り結深ちゃんに決めてもらおっか」
観雫が納得してくれたことにより俺と観雫の意見が一致すると、俺は次に結深に向けて言う。
「そういう話だから、結深……結深が俺と観雫どっちが兄でどっちが姉になるべきかを決めてくれ」
「そういうことなら任せて!私がバッチリ決めてあげる!」
結深はとても乗り気な様子でそう言うと、続けて言った。
「私としては、やっぱり今までお兄ちゃんと義兄弟として過ごしてきたから、お兄ちゃんが誰かの弟になるっていうのはあんまりイメージに無いんだよね」
流石結深だ……俺のことをしっかりとわかってくれている。
俺はそんな結深の言葉に一度頷いて言った。
「そうか……じゃあ、俺の方が兄────」
「でも、イメージに無いからこそ、弟としてのお兄ちゃんも見てみたい気はするんだよね〜!」
……え?
俺が突然の手のひら返しに困惑していると、次に観雫が二回ほど強く頷いて言った。
「わかる!わかるよ結深ちゃん!」
「そうだよね観雫さん!」
そして、結深はその勢いのまま続けて言った。
「決めた!お姉ちゃんは観雫さ────」
「待て待て結深!そんな一時のノリで決めるな!」
俺は、危うく結論を出そうとしていた結深に対してそう言うと、続けて伝える。
「もっと他にも判断材料はあるだろ?落ち着きとか、兄もしくは姉としての頼りがいがあるかどうかとか」
「私としては、お兄ちゃんはお兄ちゃんとして本当にかっこいいお兄ちゃんなんだけど……観雫さんがお兄ちゃんの妹っていうのはどうしても想像できないんだよね」
そう告げる結深に対して「私も」と共感する観雫。
それに反論を示したかったが────俺は、それに対する反論らしい反論を頭の中で描くことができなかった。
それは、今まで様々なことで観雫に頼ってきたという経験があるからだ……完全に認めたわけではないが、確かに俺と観雫どちらが兄でどちらが姉かという話し合いは、観雫が姉という方に分があるのかもしれない。
「わかった……それなら、観雫が姉で良い」
俺が二人の考えに納得した形でそう言うと、観雫は結深のことを抱きしめ言った。
「やった〜!ありがとう結深ちゃん!」
そう言うと、観雫は結深のことを抱きしめた────かと思えば、次に俺の隣までやって来ると、どこか得意げに言った。
「ねぇねぇ一入、私のことお姉ちゃんって呼んでみてよ」
「……」
俺は、今後も観雫に弟としてこんな要求をされ続けるのだろうか……そう考えると俺はやっぱり最後の最後まで抵抗するべきだった、と後悔した────なんて思いながらも、そんな日常もこの二人と居られるというだけで楽しく感じるんだろうな。
そう思い直した俺は、観雫に要求された通りに観雫のことを呼んだ。
「────香織姉さん」
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