第66話 俺は結深と観雫を愛したい
「義兄弟……?」
俺は観雫の突然な提案にそう疑問の声を漏らした。
その言葉だけは疑問が出るということをわかっていたのか、観雫は小さく頷いて言う。
「うん、義兄弟……そうなることができたら、私たちは三人で楽しく過ごしていくことができると思うよ」
「それは……どうしてだ?」
俺がそう聞くと、観雫は言った。
「私と結深ちゃんの争う理由が無くなるからだよ」
結深と観雫の争う理由が無くなる……?どうしてそうなるんだ?
俺が、疑問がさらに疑問を呼ぶといった状況に陥っていると、結深が言った。
「私と観雫さんが争う理由って、お兄ちゃんのことを好きだからだよね?」
「そうだよ……私と結深ちゃんは、一入のことを好きで、その一入のことを自分が愛して、自分が愛されたいって思ってるから争うしかなかった……そうだよね?」
「うん……私はお兄ちゃんのことを愛したいし、お兄ちゃんに愛して欲しい」
「私も、結深ちゃんと同じことを思ってるよ」
……この会話を聞いても、俺たち三人が義兄弟になることとどう繋がってくるのかがわからない。
そう思っていると、観雫が続けて言った。
「でもね────私たちが義兄弟になれば、私たちは二人で一入のことを愛せるようになるんだよ」
「……え?」
俺がそう声を上げると、続けて結深も言った。
「……二人で?」
結深も俺と同様にその言葉の意味が理解できないのか、観雫にそう聞き返すと、観雫は言った。
「大前提として、もし兄弟のことを愛してあげられるなら、当然それは愛してあげた方が良いよね……それで、普通の兄弟だったら愛してあげるって言ってもできることは一緒にご飯を食べたり遊んだり、かなり仲が良かったとしてもお風呂に入るぐらいで、高校生とか大学生、下手したら中学生になったら、きっとそんなこともしなくなると思うんだよね……でも────義兄弟なら、その先のことだってできて、たくさんの方法でその兄弟のことを愛してあげることができるの……しかも、私と結深ちゃんは一入に対して恋愛感情を持ってるから、普通の兄弟愛よりもさらに大きな愛を一入にあげられると思うよ」
「……それだったら、私と観雫さんが仲良くした上で、お兄ちゃんと愛し合えるってこと?」
「うん……結深ちゃんは、私たち三人で義兄弟になることについてどう思う?」
そう聞かれた結深は、少し間を空けてから言った。
「私は……お兄ちゃんのことを愛せて、観雫さんとも仲良くできるんだったら……そうしたい!」
結深がそう言うと、観雫は優しく微笑んで頷いた。
そして、次に観雫は俺の方を見て言う。
「これができるかどうかは、一入の意思次第だよ……ねぇ、一入はどうしたい?」
観雫がそう言うと、結深も俺のことを見てきた……二人が俺の返答を待っている。
俺の意思、俺が二人とどうなりたいのか。
前の俺だったら、きっと義兄弟でそんなことを考えるなんていけないと思っていたと思うが────今の俺はそうじゃない。
結深と向き合ったおかげで、義兄弟からの愛というものの大切さも十分にわかっている。
なら、本当に問題は、俺が二人とどうなりたいかだ。
このまま結深とも観雫ともこの距離感のまま生きていって、本来なら仲良くできる二人が俺のせいで仲良くできないところを見て生きていくのか……それとも、どちらかを選んでどちらかの涙を見るのか────そんなのは、俺の望む未来じゃない。
俺は……二人と楽しく、幸せに生きて、二人の幸せな顔を見たい……そうか、これがきっと────好きってことなんだ。
そう心に強く感じた俺は、ハッキリとした口調で言った。
「俺は────結深と観雫、二人のことを愛したい」
俺がそう伝えると、二人は涙を流しながら同時に俺のことを抱きしめてきた。
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