第65話 観雫は俺と結深にお願いする
俺は、涙を流しながらそう言って俺にしがみついてくる観雫のことを抱きしめて言う。
「大丈夫だ、観雫……俺たちはきっと、三人で楽しく過ごしていく事ができる……」
その言葉を受け入れたいはずの観雫だが、今頭に浮かんでくることはそれとは真反対のことばかりなのか、それを口にする。
「でも、私が一入のことを好きになってる以上、結深ちゃんは……本当に一入のことを諦められたら良いんだけど、一人でお風呂上がってからこのソファの上で、やっぱり諦められないって思っちゃったの……だから、やっぱりそんなことできな────」
「できる」
涙を流しながら自分の感情を吐き出すように語る観雫に対して、俺は強くそう言い切った。
そして、続けて観雫のことを優しく抱きしめながら言う。
「根拠が無く言ってるわけじゃない……観雫が、結深のことを妹みたいだって言う前に、俺も結深と観雫が姉妹のように見えたんだ……だから、できる」
「一、入……」
消え入りそうな声で俺の名前を呼んだ観雫のことを俺は抱きしめ続け、俺にしがみつくようにしていた観雫は、いつの間にか俺のことを抱きしめていた。
そして、それから数分後……観雫の涙も落ち着いて来た時に、お風呂から上がってリビングにやって来た結深が大きな声を上げた。
「あ〜!」
そして、すぐさま俺たちの目の前までやって来ると、大きな声で言う。
「ねぇ!何その雰囲気!私そんな雰囲気になって良いなんて言ってないんだけど!もしかしてキスしたの!?したの!?お兄ちゃんの嘘つき!!えっちなことはしないって約束だったのに!!」
俺たちが抱きしめ合っているところを見て、俺たちの今までに無い空気感も見ればそう考えてしまうのも無理は無いが、俺は観雫と一緒に互いから体を離しながら言う。
「誤解だ、結深が見ての通り抱きしめ合ってはいたが、断じてそれ以上のことはしていない」
俺がそう言うと、いつの間にか涙を拭っていた観雫が普段よりも優しい口調で言った。
「そうだよ結深ちゃん、私たちは抱きしめ合ってただけで、それ以上のことはしなかったから安心して」
そう言った観雫だったが、結深は思うところがあるのか、まだ追及をやめずに言う。
「ふ〜ん?それにしては二人の空気がなんか今までと違うくない?」
「そうかな?」
「そう!」
観雫は聞き返したが、結深は大きな声で即答すると、俺のことを抱きしめて来た。
そして、続けて大きな声で言う。
「もし観雫さんと何も無いって言うんだったら、私のことも抱きしめて!」
そう言われた俺は、観雫の方を見て観雫の様子を窺ってみるが、観雫は今までに無いほどの優しい笑顔を見せて言った。
「私は平気だから、結深ちゃんのことを抱きしめてあげて」
観雫がそう言ってくれたことと、俺自身も結深のことを抱きしめ返したかったため、俺は結深のことを抱きしめ返して結深と少しの間抱きしめ合った。
そして、少しの間抱きしめ合っていると────
「はぁ〜!お風呂上がりにお兄ちゃんと抱きしめ合うと、お風呂の中で抱きしめ合うのとはまた別の特別感があるね〜!」
というように、結深が満足げな様子を見せたため、俺と結深はゆっくりと抱きしめ合うのをやめた。
そして、吹っ切れた表情をした観雫が俺たちに向けて優しく微笑みながら言う。
「私……やっぱり、一入のことを好きだからって理由で結深ちゃんと争いたくないの、せっかく一入のことが好きなのが同じなのに、その一入が原因で争わないといけないなんて、やっぱり変だよ……だから、私は二人にお願いがあるの」
「お願い……?」
俺がそう聞き返すと、観雫は俺と結深のことを一度優しく微笑みながら交互に見て、ハッキリとした口調で言った。
「────二人とも、私の義兄弟になってよ」
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