第63話 観雫は結深と仲良くしたい
「私のことを好きって……どういうこと?」
しばらく静かに観雫のことを見つめていた結深は、観雫の言葉の意味を探るためにそう投げかけた。
すると、観雫は優しく微笑んだまま続ける。
「そのままの意味だよ、って言っても、私が一入のことを好きなのとはまた違う好きで、なんて言うのかな……家族……そう、妹?みたいな……私は兄弟が居ないから今までそんな感覚とは無縁だったんだけど、今日結深ちゃんと過ごしてて、そんな感覚を感じたんだよね……だから、私が結深ちゃんのことを好きなのは家族愛に似た好きかな」
確かに、俺も先ほど思ったことだったが、さっきの二人は────いや、さっきだけじゃなく、今日の二人は全体を通して姉妹のように見える。
俺もその観雫の発言に近い感情を抱いていると、結深が言った。
「私は別に、観雫さんのことをお姉ちゃんだなんて思ってないから!観雫さんは私にとって敵だから!」
それでも観雫のことを敵だと考えている結深。
……きっと、本来なら結深と観雫の相性はそこまで悪くなかったはずだ。
性格は似ても似つかない二人だが、だからこそ噛み合う物があるだろうし、事実観雫のことを敵だと認識していても息があっているところも多々あるため、そのことから考えてもやはり本来二人の相性はそこまで悪くないんだろう。
なら、どうして二人が仲良くできないのか。
それは────
「それって、私が結深ちゃんにとって恋敵だからだよね?」
俺の考えていることの続きを、観雫が口にする形で結深にそう聞いた。
すると、結深はそれに対して頷く。
「そう!」
「────じゃあ、私が一入のことを諦めたら、結深ちゃんは私と仲良くしてくれるの?」
「……え?」
その発言に結深は困惑の声を漏らした。
そんな結深に、観雫は言葉を一つ一つ紡ぐようにしながら話す。
「私……今みたいに結深ちゃんと恋敵の関係で、喧嘩しながら過ごしていくなんて嫌だから……それだったら、一入のこと諦めて、一入と結深ちゃんの二人と仲良く楽しく過ごして行きたいなって……今、本当に今ふと思ったの────ねぇ、どうなの?結深ちゃん、それだったら私と仲良くできるの?」
さっきまでは明らかに観雫に敵対意識を向けていた結深だったが、そう言われて少し間を空けてから静かな声で言った。
「それだったら、別に仲良くしても良い……けど────観雫さんは、本当にそれで良いの?」
「良かった、これでも断られちゃったらどうしようかと思ってたけど、それなら安心だね」
そう言うと、観雫は体にタオルを巻いて、お風呂から上がるとお風呂場の入り口前に立って言った。
「私は先上がって待ってるから、二人は好きにして良いよ」
それだけ言うと、観雫は本当にお風呂場から出て行った。
────出て行く時に見えた観雫の横顔は、どこか悲しそうだった。
「……」
観雫がお風呂場から出て行ったことにより、お風呂場には一緒にお風呂に浸かっている俺と結深だけが残される。
すると、結深は大きな声で口を開いて言った。
「観雫さんも居なくなったことだし、私とお兄ちゃんの二人でイチャイチャ────なんて、観雫さんのあんな顔見ちゃったら、そんなこともできないよね」
どうやら、観雫の出ていく時の悲しそうな表情は結深にも見えていたらしく、結深はそう呟いた。
そして、続けて言う。
「お兄ちゃん、今は……観雫さんのところに行ってあげて」
「……良いのか?」
「観雫さんのことは嫌いじゃ無いし、私のことを好きって言ってくれた人が悲しんでるところを見るのは嫌だから……あ!でも、その場の流れでえっちなこととかは絶対にしたらダメだからね!」
「そんなことはしない……それに、俺も観雫の様子は気になっていたから、結深がそう言ってくれて良かった」
結深はやっぱり優しいな。
改めてそう思いながら立ち上がった俺だったが────今から一人になる結深のことを考えて、俺は一度お湯に浸かり直した。
「お兄ちゃん……?」
結深はそんな俺の行動を不思議に思ったのか、困惑の声を上げた────その次の瞬間、俺は結深のことを抱きしめる。
「お、お兄ちゃん!?い、いきなりどうしたの!?」
「ここで結深のことをただ一人にしたら、それこそ結深が悲しい顔をすると思ってな……そうじゃなくても、俺がこうしたかったんだ」
「お兄ちゃん……!」
その後、結深も俺のことを抱きしめてきて、少しの間俺たちは互いを抱きしめ合った。
そして、互いに抱きしめ合うのをやめると、俺は立ち上がって結深に言った。
「じゃあ、行ってくる」
「うん……観雫さんのこと、お願いね────それは、お兄ちゃんにしかできないことだから」
優しく微笑んでそう言う結深に対して、俺は強く頷いてからお風呂場を後にして、観雫の元へ向かった。
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