第62話 観雫は義妹に伝える

 タオルを体に巻いていない二人に、それぞれ俺の右と左の腕を抱きしめられていることによって、二人の体は俺の腕に密着し、二人の大きくて柔らかい胸の感触が俺の腕を包む。

 突然のことに何が起きているのかわからなかったが、俺は反射的に声を上げていた。


「ふ、二人とも、何をしているんだ!?」


 俺がそんな疑問よりも驚愕の大きな声を上げると、結深は言った。


「お湯に浸かってたら、お兄ちゃんに私の体は見えないでしょ?」

「だ、だからって────」


 俺がそれに意見しようとした時、次は観雫が言った。


「それに、直接一入の体に触れられるからね……こうして直接一入のことを抱きしめられるなんて、夢みたい」

「み、観雫……!」


 この状況はまずい、自分の心拍数がとても高まっていることがよくわかる。

 ……とりあえず、二人に俺の腕を抱きしめるのをやめてもらおう、話はそれからだ。


「二人とも気づいていないのかもしれないが、俺の腕に信じられないほどしっかりと当たってる……だから、一度俺の腕を離してくれないか?」


 そういえば、二人も俺の腕に自分の胸が当たっていることに気づいて一度俺の腕を抱きしめるをやめてくれるはず────と思ったが、そんな俺の目論見は外れて、その目論見とは反対に二人はより強く俺の腕を抱きしめてきた。

 それにより、俺の腕は二人の胸に沈むような感覚に陥る。


「お、おい!何してるんだ!?」


 俺がそう言うと、観雫は頬を赤く染めながら言った。


「何って、一入の方こそ何言ってるの?私は……一入に触れて欲しくて触れて欲しくてたまらないんだから、そんなこと言われても離すわけないし……むしろ、もっと抱きしめたくなっちゃうよ」


 そう言いながら、観雫は俺の腕をさらに自分の方へ抱き寄せた。

 そして、次に結深が頬を赤く染めて言う。


「お兄ちゃん……前私の胸を触ってくれた時は浴衣越しだったけど、今は直接触れてるんだよ?どう?」

「ど、どうって聞かれても……」

「腕に当たってるだけじゃわからないよね……じゃあ、今度は浴衣越しでも腕でも無くて、手のひらで直接触れていいよ?」

「そ、それは……いくらなんでも────」


 俺がその結深の言葉に戸惑っていると、観雫がそれを遮るように言う。


「結深ちゃんはこの間、一入に浴衣越しに胸触ってもらったんだよね?じゃあ、次は私が一入に触れてもらう時だよ」

「え……?」


 その観雫の言葉を聞いた結深は、慌てたように大きな声で言った。


「ダメに決まってるじゃん!お兄ちゃんが異性として求めて良いのは私だけなんだから!」

「私だって一入に求められたいのに、それはずるいんじゃないかな?」

「そんなの知らない!ていうか!観雫さんはもう早くお風呂上がってよ!私は今からお兄ちゃんと二人でゆっくりと二人きりのお風呂を楽しむから!」

「それはできないよ、私も一入とお風呂浸かってたいからね」

「もう〜!観雫さんが居たら、私お兄ちゃんとイチャイチャできないじゃん!」


 言い合っていた二人だったが、結深がそう言うとお風呂場に少しの間沈黙が生まれた。

 ……そして、その沈黙を破ったのは、優しい表情をした観雫だった。


「……結深ちゃん、私今日一日を通して、結深ちゃんにどうしても伝えておきたいことがあるの」

「何?またお兄ちゃんを譲ってとか言うつもりなら────」

「ううん、そうじゃないよ……私が言いたいのはそんなことじゃないの……私が伝えたいことは……」


 観雫は、結深の方をまっすぐ見つめると、結深に向けて優しく微笑んで言った。


「私────結深ちゃんのことも、好きになっちゃった」


 その観雫の言葉にはとても温かいものが込められていた────そして、それはきっと結深にも伝わったはずだ。


「……」


 結深はしばらくの間何も言えず、真っ直ぐに観雫の顔を見つめていた。

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