第58話 義妹と観雫は仲が良い?

「あと、一入の────」

「ちょっと待て」


 俺は、口を開こうとした観雫の言葉を遮ってそう言う。


「どうかしたの?一入」

「どうかしたの?じゃない、もうあれから一時間弱は二人でずっと俺の好きなところを話し合ってるだろ?」

「そうだけど」

「何か問題ある?」


 二人は、俺のことを不思議な目で見てきた。

 ……この場では人数が三人から居ないから、多数決の観点で言えば俺の方がおかしいような扱いを受けているが、どう考えたって好きなところを本人の目の前で一時間弱話し合い続ける方がおかしいはずだから、俺は何も間違ったことは言っていない。


「問題だ、もしこれ以上話し続けるんだったら、俺はもう聞けないから二人で話しててくれ」


 俺がそう言うと、結深が頬を膨らませて大きな声で言った。


「え〜!なんで私が観雫さんと二人で話さないといけないの!?」

「さっきまでずっと観雫と一緒に楽しそうに話してただろ!」

「それは、その……観雫さんが、お兄ちゃんのこと私ほどじゃないけどわかってるから、つい……」


 その言葉に少し反応を見せた観雫が、口を開いて言った。


「私ほどじゃないって、私の方が一入のことわかってるんだけど……結深ちゃん、一入が授業中どんな感じかとか、学校の中でどんな感じかとか、少なくとも私よりは知らないでしょ?」

「それは……」


 結深は、その観雫の問いに一度口を閉じたが、再度口を開いて言う。


「観雫さんだって、お兄ちゃんが家でどんな感じか知らないでしょ?普段の生活だけじゃなくても、例えば寝顔とか!」

「っ……」


 その言葉に、今度は観雫が口を閉じると、二人は睨み合いになった……そして、しばらくの間そうしていると、観雫が結深に聞く。


「……一入の寝顔って、どんな感じなの?」

「お兄ちゃんの寝顔は……無垢な感じ!もう本当に可愛いの!」

「想像出来るね」


 そして、次は少し間を空けてから結深が言った。


「……お兄ちゃんは、学校の中でどんな感じなの?」

「授業中とか、時々眠たそうにしてて、うとうとしながら授業受けてる時とかあるよ」

「え〜!見たい〜!」

「同じクラスの私の特権だね」


 二人は、楽しそうにそんなことを話していた。

 ……仲が良いのか悪いのかわからないが、とりあえず俺がこの場に居ることだけは間違いだと確信できたため、俺がこの場を去────ろうと席を立ち上がった時、結深と観雫も席を立って、結深は俺の右腕を、観雫は俺の左腕を掴んできた。


「ふ、二人とも、何のつもりだ!?」


 俺がそう言うと、観雫が言った。


「ねぇ、結深ちゃん……また前みたいに、三人で一緒にお風呂入らない?」

「……今日だけは、特別にそれで良いよ」

「はぁ……!?」


 そして、そのまま俺と結深と観雫の三人で一緒にお風呂に入ることとなり、俺たちは三人で一緒にお風呂場へと向かった。


「私はタオルしなくても良いけど、お兄ちゃんと観雫さんはちゃんとタオルしないとダメだよ!」

「どうして?」

「お兄ちゃんの何も体を隠してない姿を私以外に見てほしくないし、私以外の女の体をお兄ちゃんに見て欲しくないから!」

「……私は、結深ちゃんだったら一入が結深ちゃんの体見ても良いって思えるけど、私だって大好きな一入に私の体見て欲しいって思ってるから、そこだけは譲れないよ」


 そう言って、二人はお風呂場の前で言い合いを始めた。

 ……本当に、仲が良いのか仲が悪いのかわからないし、いつもいつも仲が良くなるタイミングと仲が悪くなるタイミングが俺にとって最悪なものばかりだ。

 二人は言い合いをした結果、全員がタオルに体を巻くという結論に至ったようで、俺たちはそれぞれ体にタオルを参って一緒にお風呂場へと入った。

 以前三人でお風呂に入った時とは、俺たちの関係は大きく変わった……前と同じくどうにか何事も起きずに乗り切ることができるのだろうか。


「……」


 今の俺には、そのことを祈ることしかできない。

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