第57話 観雫の大事な話

「────それで、大事な話って何?」


 明らかに機嫌を悪そうにしている結深が観雫にそう聞くと、観雫は頷いて答えた。


「うん、簡単に言うと……私、一入のこと好きなの」

「っ……!」


 それを聞いた結深は、少し驚いた様子だったが、観雫は続けて言う。


「もう、一入に告白も済ませてる」

「……そうなの?お兄ちゃん」

「……あぁ」


 まさかいきなりそんなことを話し出すとは思っていなかった俺は少し驚いたが、観雫が結深と話したいと言っていた時から今後に関わる重要な話であることはわかっていたため、すぐに状況を理解して俺はそう返事をする。

 すると、結深が口を開いて言った。


「まぁ、前からそんな感じはしてたけど、本当にお兄ちゃんのこと好きだったんだね」


 そう言われた観雫は、口を開いて言う。


「うん、まだ返事はもらえてないけど、とにかく私は一入が好きだよ……それで、返事はもらえてないけど一入のこと抱きしめたりはしたよ」

「……へぇ」


 結深は平静を装ってはいるが、声音には少し怒気が含まれていた。


「あと、二人で一緒にお風呂に入ったりしたかな」

「お、お風呂!?」


 そのことには驚きを隠せなかったのか、結深が驚いた様子で言った。

 だが、観雫はさらに続けて言う。


「あとは、抱きしめ合ったりもしたよ」

「抱きしめ合った……?」


 そこまで聞いた結深は、観雫に対してではなく、俺に対して怒りの目を向けてきた。


「私だってお兄ちゃんと抱きしめ合ったことないのに、観雫さんとは抱きしめ合ったんだ」

「そ、それは……」


 俺が何も答えられないでいると、観雫が結深に言った。


「その話は置いておくとして、一入は優しいから私のことを思って、結深ちゃんとの関係も色々話してくれるんだけど、今日は結深ちゃんと旅行に行った話を聞いたよ」

「そうだったんだ、だから観雫さんは、お兄ちゃんとそこまで……」


 結深は、どこか腑に落ちた様子だった。


「だから、結深ちゃんが浴衣越しに一入に胸を触られたこととかも知ってるよ」

「……もしかして、それで観雫さんもお兄ちゃんに触ってもらったの?」


 そう聞かれた観雫だったが、首を横に振って言う。


「ううん、私は触られてないよ」

「そう、なら良いけど」


 結深はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 そして、観雫は真面目な表情で言う。


「で、ここからが本題なんだけど……結深ちゃん、私に一入のこと譲ってくれないかな?」

「本気で言ってるの?私がお兄ちゃんのこと譲るわけないじゃん、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから」


 だが、その結深の返答を予測できていたのか、観雫もすぐに返事をする。


「うん、そう言うと思ったよ……だから────どっちが一入のこと好きなのかで決めようよ」

「そんなの話すまでもなく、私の方が好きだよ」

「私だって、私の方が一入のことを好きだって思ってる……だから今から、一入の好きなところを言い合わない?それで好きの度合いを測るの」

「……それで良いよ」


 何故か、流れるように二人が俺の好きなところを言い合うことが決定すると、観雫が口を開いてさっきまでの真面目な表情から一転して楽しそうな表情で言った。


「じゃあ、先に私ね……私の一入の好きなところは、優しいところかな……意図して優しくしてくれてるわけじゃなくて優しくしてくれてたり、普段は全然鈍いのに肝心な時はちゃんと鋭かったりするところ」

「……まぁ、まずまずって感じ、お兄ちゃんのことちょっとはわかってるみたいだね」

「ありがとう、次は結深ちゃんの番だよ?」

「私がお兄ちゃんの好きなところは、ちゃんと向き合ってくれるところ!どれだけ細かいことでも一つ一つ向き合ってくれて、私のことを大事だって思ってくれてるのが伝わるところ!」

「わかるよ、一入ってそういうところあるよね」


 観雫が頷いてそう言うと、結深も観雫と同様楽しそうにしながら言った。


「うん!他にもたくさんお兄ちゃんの好きなところがあって────」


 その後、二人は延々と俺の好きなところというのを楽しそうに話し続けていた。

 ……それを聞いている俺は、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

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