第56話 観雫は隠されたくない
二日目の朝になると、俺と結深は支度を済ませて旅館を後にすると、家まで帰ってきた。
この旅行で確実に関係性が深まった俺と結深だったが、旅行の次の日ということもあってこの日はのんびりと過ごし────月曜日になると、俺は学校に登校した。
俺の席の前には、いつも通り観雫が座っている。
「おはよう、一入」
そして、その観雫がいつも通り挨拶をしてくれた。
観雫とは旅行に行く前日に一緒にお風呂に入ったが、その次の日に俺は結深と旅行に行って、浴衣越しにとはいえ結深の胸を────
「……お、おはよう、観雫」
そう考えると俺は少し気まずくなって、言葉を詰まらせながら観雫に挨拶を返す。
その不自然さを観雫が見逃すはずもなく、観雫はその不自然さを言及してきた。
「何その感じ……また結深ちゃんと何かあったの?」
……観雫はやはりとても鋭いが、今回に関しては結深とあった事をそのまま伝えるのはいくらなんでも申し訳ないため、俺は少しぼかして伝えることにした。
「この休日、ちょっと結深と出かけただけだ」
「出かけて?何かしたんじゃないの?」
「何もしてない」
そう答えた俺だったが、観雫は少し間をあけて言った。
「前にも言ったけど、私に気とか遣わなくていいから……一入に隠し事される方が、辛い」
「……」
そこまで言われればもはや隠し続けるわけにもいかないため、場所を誰も居ない屋上に移して、俺は結深と旅行に行ったこと、そしてこの旅行であった事を洗いざらい観雫に話した。
すると、観雫は落ち着いた声音で言った。
「なんだ、それだけなんだ……一入が妙に緊張したような空気出してたから、もっと先のことまでしたのかと思っちゃった」
……もっと先のことまでしたのかと思ったという言葉は本当だと思うが、少なくとも意中の相手が他の異性とそういった行為を行ったことを知ってそれだけ、なんて思えるはずがない。
きっと、自分のため、そして俺のためにもそういった言い回しをしてくれているんだろう。
俺は、それによってさらに申し訳なさを感じて言う。
「本当に悪い……観雫と一緒にお風呂に入った次の日に、そんなことをして……」
「正直に教えてくれたから別にいいよ……それで、どうだったの?」
「どうって、旅行の話か?」
俺がそう聞くと、観雫は落ち着いた様子で聞いてきた。
「そうじゃなくて、結深ちゃんの胸、浴衣越しにだけど触ったんでしょ?どうだったの?」
「っ……!?」
予想外のことを聞かれた俺は、かなり驚く。
そして、その次の瞬間に口を開いて言う。
「ど、どうしてそんなことを聞くんだ!?」
「ううん、一入のことからかってみただけ」
「はぁ!?」
観雫は小さく笑いながらそう言うと、屋上のベンチから立ち上がって、次は真面目な表情で言った。
「でも、やっぱりこのままだと良くないと思うから……決めたよ」
「……決めたって、何をだ?」
「────今日の放課後、一入の家に行って結深ちゃんと話す」
「え……!?」
このタイミングで、観雫が俺の家に来て結深と話す……!?
一体どんなことを話すつもりなのかはわからないが、観雫の雰囲気を見るに俺たちの今後に大きく影響してくる話になるのは間違いない。
「……」
俺は、観雫がどんなことを話すつもりなのか、内心緊張感を抱きながらも授業を受けて、あっという間に放課後がやって来ると────
「じゃあ行こっか、一入」
「……あぁ」
俺と観雫は、一緒に俺の家へと向かった。
俺の家に入ると、結深がいつものように俺を出迎えてくれ────たが、その反応はいつものようにとはいかなかった。
「おかえり!お兄ちゃ────んと……観雫、さん?」
「うん……今日は結深ちゃんと、大事なお話をしたいなって思って」
それを聞いた結深は、少し強張った表情をした。
……このまま玄関で話すわけにもいかないため、その後俺たちはリビングの椅子に座って、観雫の言う大事な話というのを始めることとなった。
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