第54話 義妹の告白

 それぞれ体にタオルを巻いた俺と結深は、一緒に露天風呂のあるところまでやって来た。

 ここから和風な街並みが見えて、旅行ならではといった感じだ。


「良い景色だな……露天風呂も思ったより広い」

「うん!浸かろっか!」


 結深のその言葉を受けて、俺と結深は一緒に露天風呂に浸かる。

 そして、露天風呂に浸かると、結深はすぐに俺の方へ身を寄せてきた。


「……せっかく広い露天風呂なんだ、もう少し豪勢にスペースを使わなくても良いのか?」

「お兄ちゃんに触れることができるなら、私にはこんなに広いスペースなんて要らないから使わない!」


 そう言いながら、結深は俺の腕を抱きしめてきた。

 その瞬間、俺の腕は柔らかな感触に包まれた。


「……」


 少しでも腕を動かしたらよりその感触を感じてしまいそうだから、今は下手に動かさない方が良さそうだ。

 俺がそんなことを考えていると、結深がここから見える街並みを見るために俺の腕を抱きしめながら足を前に進めて言った。


「見てお兄ちゃん!私たち、あの街で今日過ごしたんだよ!」

「そうだな……団子とか饅頭を食べて、あとはお土産用で売られてた美味しそうなお菓子を買ったり、観光地を巡って写真を撮ったりもしたな」

「うん!本当に楽しかったよ!」


 明るい声でそう言った結深は、頭を俺の体の方に傾けて来て、頬を赤く染めながら言った。


「お兄ちゃん、私今日とっても幸せなの……お兄ちゃんと二人で旅行に来られて、お兄ちゃんと楽しく過ごせて……お兄ちゃんが、本当に私のことを異性として強く意識してくれてるってことが伝わってきて……本当に幸せ」


 結深は、言葉通り心底幸せそうにしてそう言った……そして、そんな結深を見ながら、俺も今日一日を振り返る。

 最初旅行に行くと聞いた時はどうなることかと思ったことだが、今日一日を振り返ってみれば────結深の言う通り、本当に楽しかった。

 そして、今この瞬間も楽しいと思っているため、俺はそのことを口にする。


「俺も……思っていた何倍も楽しい」

「お兄ちゃん……」


 結深は甘い声でそう言うと、続けて俺の腕を抱きしめるのをやめて言った。


「……お兄ちゃん、こっち向いてくれる?」

「あぁ、わかった」


 どういう意図があるのかわからなかったが、俺は結深に言われた通りに結深の方を向いた────その次の瞬間、結深は俺のことを正面から力強く抱きしめてきた。

 そして、甘い声で言う。


「お兄ちゃん、大好き……私、お兄ちゃんと付き合いたい」

「っ……!」


 突然……でも無いが、そう言われた俺が少し驚いていると、結深は俺から身を離して言った。


「そういえば、今まで私お兄ちゃんのことが好きとか、結婚したいとかは言ってたけど、こうしてちゃんと告白してなかったなって思ったの……だから告白できて、ちょっとスッキリした」

「結深……」


 それから、結深は少し間を空けてどこか決意を固めたような表情で言った。


「……ねぇお兄ちゃん、露天風呂上がらない?ちょっとだけ、聞いて欲しいことがあるの」

「……わかった」


 俺が頷いてそう返事をすると、結深は優しく穏やかで、愛情の込められた表情で微笑んだ。

 その後、結深の提案通りに二人で露天風呂から上がると、俺たちはそれぞれ浴衣を着て旅館の部屋まで戻ってきた。

 そして、結深は部屋の電気を消すとベッドサイドランプを点けて、すぐにベッドの上に座った。


「ベッドの上で話すのか?」

「……もう夜だから、まだ寝ないにしてもベッドの上で話しても良くない?」

「それもそうか」


 結深の言葉に納得した俺は、ベッドの上に座っている結深の右隣に座る。


「それで結深……聞いて欲しいことってなんだ?」

「うん……聞いて欲しいことっていうか、正確にはお願いになっちゃうんだけど」


 続けて、結深は頬を赤く染めながら、俺の左手の上に自分の右手を重ねながら言った。


「お兄ちゃんに……私のことを、もっと異性として求めて欲しいの」

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