第52話 義妹と旅行

「お兄ちゃん見て!ここが私たちの泊まる旅館だよ!旅館!」

「あ、あぁ」


 結深と一緒に、今日から二日間泊まることになる旅館の前までやって来た俺だったが────まさか、本当にあのまま旅行に来ることになるとは。

 昨日結深に旅行の話を出された後、結深との旅行を断る理由はどこにも無いので驚きながらも頷いた俺は、その翌日、つまり今日結深と一緒に旅行へとやって来ていた。

 それもこの旅館……思っていた何倍も高そうな旅館だ。

 和風の旅館でとても大きく、入り口からとても高級感が溢れている。


「入るよお兄ちゃん!」

「そ、そうだな」


 いつになくハイテンションな結深と一緒に旅館の中へ入ると、俺たちに割り当てられた部屋へと入った。


「わ〜!見てみて!ダブルベッドに机に椅子に、襖の奥に外の景色を楽しめる席もあるよ!」

「そうだな、ちょっと景色を見てみよう」

「うん!」


 俺の提案によって、俺と結深は一緒に旅館からの景色を見てみる。

 そこからは、木々や竹などの自然あふれる景色が見えて、まさに絶景と呼べる景色になっていた。


「お兄ちゃんとこんなところに旅行に来られるなんて、本当最高だね〜!」


 ……結深のテンションに付いて行くことは難しいが、結深がこんなにもテンションを高くしてしまうのも仕方ないほどにこの旅館はとても立派だ。

 結深とは初めての旅行だが、毎日一緒に生活しているのでそのことに対しての緊張感は特に無い。

 一度荷物を部屋に置くと、結深はダブルベッドの上に乗って言った。


「見てみてお兄ちゃん!ふかふか!」

「そうか、良かったな」

「うん!今日一緒にこのベッドで寝る時が楽しみだね!」

「……え?」


 一緒にこのベッドで、寝る……?

 俺はその時、結深の発言によってこの部屋の衝撃の事実に気が付いた。

 とても広い部屋で、外への景色が楽しめる席に、テレビや風景画まである────のにも関わらず、ベッドは一つしかない。

 俺がそのことに困惑していると、結深が頬を赤く染めて言った。


「お兄ちゃんと同じベッドで一緒に寝られるなんて、本当に楽しみだよ……早く夜にならな────」


 俺はそんなことを言っている結深の言葉を遮るようにして言う。


「ま、待て結深!一緒のベッドでなんて寝られるわけないだろ!?」

「でも、ベッド一つしかないよ?」

「……だったら、俺が畳で寝る」

「お兄ちゃんが畳で寝るんだったら、私も畳で寝る!」

「は、はぁ!?それだと俺が畳で寝る意味が────」

「とにかく!お兄ちゃんは私と一緒に寝るの!これはもう決定事項だから!!」


 ……俺が畳で寝るなら結深も畳で寝ると言われたら、当然俺は結深にそんなことをさせたくはないため何も言うことができない。


「……」


 俺は、今は夜じゃないから、夜のことは夜になった時の俺に任せるという選択をすることにして、一度このことは忘れることにした。

 そして、結深と一緒に旅館の朝食を楽しむと、結深が明るい声で言った。


「お兄ちゃん!せっかくだからこの辺りの観光しようよ!」

「そうしよう」

「やった〜!お兄ちゃんと観光デート〜!」


 相変わらずテンションの高い結深に今日一日どこまで付いていけるのか不安になりながらも、俺は結深と一緒に近くの街へ向かうことにした。

 そしてその道中────結深は、俺の腕と自分の腕を絡めてきた。


「ゆ、結深!今そういうことをするのは、前とは意味が変わって────」

「せっかくの旅行なんだからこのぐらいいいじゃん!」

「……」


 これ以上何かを言えば俺が意識しすぎているような気もしたため、俺はできるだけ気にしないようにしながら結深と街へと足を進めた。


「この旅行で、大好きなお兄ちゃんと、異性としての関係性を進める……お兄ちゃん……私、お兄ちゃんのこと、本当に大好きだからね……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る