第49話 観雫はドキドキする
「……」
結深とお風呂に入った時は、いきなり後ろから抱きしめられたり、お風呂の壁に迫られてキスをできてしまいそうなほどに顔を近づけられたりして、今までの結深に対する意識が明らかに変わった……それは、観雫の言葉を借りるのであれば、ドキドキしたからということなんだろう。
そして、観雫とも今一緒にお風呂に入って、観雫に正面から抱きしめられたり、互いの心情について話し合ったり、今ではこうして一緒にお風呂に浸かっている……そして、過去の自分ではなく今の自分を客観的に見るというのはとても難しいことだが、俺は今観雫に対してドキドキしているんだと思う……が。
どちらに対してよりドキドキしているのか、なんていう答えを今すぐに出すのはとても難しそうだ。
俺がそんなことを考えて長考していると、隣に居る観雫が俺に身を寄せて来て言った。
「答え出せないなら、私が今すぐドキドキさせてあげてもいいよ?」
そう言うと、観雫は自分のタオルの胸元に手をかけて、それを引っ張ろうとする素振りを見せた。
もしそれを引っ張れば、観雫の胸元は俺に見えてしまうだろう────俺は、目を瞑って慌てながら言う。
「な、何考えてるんだ!」
「冗談だよ冗談、私が悪かったから目開けてよ」
「……はぁ」
俺がため息を吐きながら観雫に言われた通りに目を開け────た直後、俺の顔には観雫の両手が添えられ、観雫の顔がとても俺に近づいて来ていた。
「えっ……!?」
突然のことに驚きを隠せなかった俺だが、観雫は頬を赤く染めて言った。
「昨日……結深ちゃんとは結局しなかったんだよね?キス……じゃあ、私とする?」
「っ……!?」
俺は反射的に後ずさろうとしたものの、ここはお風呂……後ずさるほどのスペースなんて無い。
「み、観雫、いきなりどうしたんだ?」
俺がそう聞くと、観雫は少し口角を上げながら楽しそうに言った。
「いきなりじゃないよ、私はずっと一入とキス、だけじゃなくてそういうこともしたいと思ってるんだから……ねぇ、一入はどう?私とキスしたくない?」
……元々観雫はどこか大人びている雰囲気があったけど、今はその雰囲気が大人びているというものから色気と呼べるものにまでなっている。
「……」
俺は、その突然のことに戸惑いながらも目の前に近づいている観雫の顔を見る。
……相変わらずとても整った顔立ちをしていて、唇には艶があり、見ているだけでも柔らかそうなのがわかる。
「一入……良いよね」
甘い声でそう呟くと、観雫はさらに俺に顔を近づけてきた。
……今勢いよく立ち上がったりしたら観雫にぶつかってしまうし、かと言って後ろに引くことはできない。
仮に腕を前に押し出したとしてもお風呂に浸かっている以上そこまで距離を離すことはできないだろう。
顔の間に手を挟む?ダメだ、もうそんなことができないほどに距離が近づいている。
俺の心臓が鼓動を早めているのがわかる……観雫とキスをしたら、どんな気持ちになるんだろう。
その柔らかそうな唇は、どんな────そんなことを考えている間に、俺と観雫の唇は、あと少し顔を傾ければ重なってしまいそうな距離にまでなった。
あと一秒で重なる────と思った時、観雫は突然俺の顔から両手を離して、俺のことを抱きしめてきた。
「み、観雫!?」
そして、観雫は楽しそうに言った。
「うん、すごくドキドキしてるね」
「っ……!?ま、まさか俺のことをドキドキさせるために────」
「安心して、一入」
そう言うと、観雫は自分の胸に手を当てて、今までに無いほど頬を赤く染めながら言った。
「私も、すごくドキドキしてるから」
────俺はその観雫の表情を見て、俺のことを好きで、俺のことで心を動かしてくれる存在が居るんだということを、今まで以上に強く実感することができた。
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