第48話 観雫は嬉しい
「観雫……」
俺は、そう呟いた観雫に対して、何も言葉をかけることができなかった。
すると、観雫がさっきとは打って変わって軽い口調で言った。
「ねぇ、それはそれとしてなんだけど……一つ聞いても良い?」
「なんだ?」
「今お互いにタオルはしてるけど、服は着てない状態で私は一入のこと抱きしめてるわけだけど、何か感想とかない?」
「っ……!」
そういえば、自然な流れで抱きしめられて、話の内容も真面目なことだったから観雫に抱きしめられたことに対する感情が抑えられていたが────改めてそう言われると、下着姿の観雫に抱きしめられた時とはまた違う感じというか、感触により柔らかみがあるというか────
「って!何を言わせようとしてるんだ!」
俺がそう言うと、観雫は少し口角を上げて言った。
「何?えっちなことでも考えちゃったの?」
「ち、違う!」
「ふ〜ん?まぁそれは後で聞くとして、私が気になってるのは一つだけ……」
そう言ってから、観雫はどこか不安そうな声音で言った。
「私に抱きしめられて、嫌って感じない?」
観雫に抱きしめられて……嫌?
「それは感じない」
恥ずかしいとか、照れてしまいそうになるとか、少し緊張してしまうとかならあるが、嫌とは一切感じ無かったため、俺が即答すると観雫は少し驚いたような声を上げてから甘い声で言った。
「そんなこと言われたら、私ずっと抱きしめちゃいそう」
そう言うと、観雫は俺のことを抱きしめる力を少し強めた。
俺は観雫の体の感触に意識が集中してしまいそうになったが、観雫が真面目な表情で続けて話し始めたため、その話に耳を傾ける。
「私さ、今まで誰かのこと好きになったことなんてなくて、友達とかが恋バナしてるの聞いてもどうしてそんなに男子に夢中になってるんだろって思ってたんだよね……でも、今ならわかるよ、好きな人と一緒に過ごせるって、こんなにも幸せなことなんだね」
「そう……なのかもな」
俺が返答に困りそう答えると、観雫が明るい声で言った。
「でも、やっぱり一入以外の男子を好きになるなんて、考えられないけどね」
「……人生はまだまだ長い、俺以外の男子を好きになる可能性はいくらでもある」
俺がそう伝えると、観雫は頬を赤く染めて言った。
「ううん、ここまで好きになれるのはきっと一入だけだよ……ねぇ、ずっとこうしてても良いけど、私一入と一緒に一緒にお風呂浸かりたい、良い?」
「……あぁ」
観雫の提案によって、俺と観雫は一緒にお風呂に浸かる。
観雫の家のお風呂は、俺の家のお風呂とあまり大きさが変わらないため、前に俺と結深と観雫の三人でお風呂に浸かった時よりもお風呂に空きがある────はずだが、観雫が俺に距離を近づけてきているため、俺と観雫は肩と肩が触れ合うほどに距離が近づいていた……俺がそのことに意識を集中させていると、観雫が口を開いて言う。
「前私と一入と結深ちゃんの三人でお風呂に入った時は、結深ちゃんが一入に何か変なことしないかなって常に警戒しててあんまり楽しめなかったけど、今は純粋な気持ちで一入と二人だけでお風呂を堪能できてることが嬉しいよ」
「そうか……俺も、観雫とこうして二人でお風呂を堪能できてることが嬉しい」
観雫は俺とのお風呂を嬉しいと感じてくれている……そして、俺も観雫とお風呂に入っている今、そのことを嬉しいと感じている……それと同時に────俺は、間違いなく観雫のことを魅力的な異性として意識している。
だが、ここで一つ問題が出てくる……俺は────
「一入は、昨日結深ちゃんともお風呂に入ったんだよね?」
俺が考え事をしていると、観雫がそんなことを聞いてきた。
「……あぁ、入った」
「じゃあ聞きたいんだけど……私と結深ちゃん、どっちとお風呂に入ってる時がドキドキする?」
そう、ここで出てくる問題……それは────俺は、結深と観雫、二人のどちらをより魅力的な異性だと感じているんだ?
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