第47話 観雫は届けたい
────少し固まっている間に観雫の言葉に頭が追いついた俺は、口を開いて言う。
「……どうして、突然そんな話になるんだ?」
どうにか頭を追いつかせて出た言葉はその疑問だった。
そして、観雫はその俺の疑問に対して口を開いて答える。
「だって、昨日は結深ちゃんと二人でお風呂に入ったんだよね?それなら、私も一入とお風呂入りたいなって思って……それとも、結深ちゃんは良くて私じゃダメな理由が何かあるの?」
結深は良くて、観雫がダメな理由……?
もしそんなものがあるとしたら、それは……
「……」
俺が少しの間何も口にできないで居ると、観雫が言った。
「無いんだったら、私と一緒にお風呂入ってくれるよね?」
……さっきの観雫の問いにも答えられない俺に、この観雫からの誘いを断る資格はない。
俺は、小さく頷いて言う。
「わかった……だが、お風呂に入ることになると思ってなくて着替えを持ってきて無かったから、一度家に着替えを取りに帰っても良いか?」
「私と二人でお風呂の時間を共有するのが目的なんだから、着替えなんて取りに帰らなくていいよ……それに、一度でも家に帰ったら結深ちゃんに捕まって、一入今日は私の家に来れなさそうだし」
「そ、そんなことは……」
無い、と言い切りたかったが、そう言い切ることはできないのが現状だったため、俺は何も言うことができなかった。
その後、俺と観雫は二人で一緒に観雫の家のお風呂場の前へと向かう。
「一入、先服脱いで入ってて良いよ」
「……わかった」
観雫に言われた通り、俺は先に服を脱いで、腰にタオルを巻くとお風呂場の中へ入った。
「……」
しばらくの間、お風呂場の中にはシャワーからお湯が流れる音だけが響いていていて、あと少しで観雫が服を着ずにこのお風呂場に入ってくると思うと、俺は少しずつ心拍数を上げていた。
────そして、シャワーからお湯が流れる音だけが響いているお風呂場に、そのお風呂場のドアが開かれる音が聞こえたため、ドアの方を見てみると……そこには、体にタオルを巻いた観雫の姿があった。
そして、観雫は頬を赤く染めながら言う。
「……二人、だね」
「……あぁ」
俺たちは、しばらく今までにない空気感で互いのことを見つめ合っていたが、俺はその沈黙を破るように言う。
「やっぱり……前に結深と三人で入った時とは、全然違う感覚だな」
俺がそう言うと、観雫は小さく頷いて言う。
「うん……前は一入とのお風呂を楽しむっていうよりも、結深ちゃんのことを見張るって感じだったけど……今は、私の視界に映ってるのは一入だけで、一入の視界に映ってるのも私だけ……体にはタオルしか巻いてない状態……ドキドキする」
そう言いながら、観雫は頬を赤く染めて嬉しそうな表情をした。
……ドキドキ、かはわからないが、少なくとも普段抱いている緊張感とは違う緊張感を抱いているのは俺も同じだ。
「……」
「……」
俺たちは、またも静かに互いのことを見つめ合う。
……見つめ合っている時間が長くなれば長くなるだけ、自分の心拍数が上がっていっているのがわかる。
俺がそんなことを感じていると、観雫は俺のことを見ながら、体が触れてしまいそうなほどの距離まで近づいて来て言った。
「あのさ……私、こういうの伝えるの下手だから、一入にはちゃんと届いてないのかもしれないけど、私一入のこと本気で大好きだから」
「あぁ……前屋上でも同じことを言ってくれたな、観雫の気持ちは十分届いて────」
俺が十分観雫の気持ちは俺に十分届いている……と言おうとした時、観雫は俺のことを正面から抱きしめてとても優しい声音で言った。
「ううん、届いてない……まだまだ、届いてないよ……この私の気持ちを、全部一入に届けられたらいいのに……」
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