第45話 義妹は異性

「……え?」


 突然結深から抱きしめられたことに対して驚いた俺は、驚きの声を上げる前に困惑の声を上げたが────その次の瞬間には、驚きの声を上げていた。


「ゆ、結深!?な、何をしてるんだ!?」

「何って、そんなことわざわざ言わなくても見て────っていうか、見なくてもわかるよね?お兄ちゃんのこと抱きしめてるの」


 そう言いながら、結深は俺のことを抱きしめる力を強める。

 ────そして、結深が俺のことを抱きしめる力を強めたことによって、さらに結深の体が俺に密着した。

 ……今まで結深に抱きしめられた時は基本的に結深は制服とかを着ていたが、今はタオルを体に巻いているだけなため、結深の体の感触────主に胸元の感触をとても感じる。

 その感覚に意識が向いてしまいそうになるのをどうにか抑えながら言う。


「そ、そういう話じゃない、俺が聞いてるのはどうして俺のことを抱きしめてるんだってことだ」

「それこそ、言わなくても見なくてもわかることだよ……私がお兄ちゃんのことを大好きだから、大好きな人のことを抱きしめるのは自然なことでしょ?」

「だからって、タオルしか体に巻いてない時にいきなり抱きしめてくるな!」

「別に良いじゃん!それに、こうしたら色々と当たって私が異性だってことを意識しやすくなるでしょ?」


 そう言いながら、結深はさらに俺のことを抱きしめる力を強めた。

 それにより、さらに結深の胸元の感触を感じる。


「ゆ、結深!そろそろ────」

「そろそろはこっちのセリフだよ」


 結深は、声を暗くしてそう言ったかと思えば、俺の背中に頭を傾けて言った。


「お兄ちゃん、そろそろ私のこと異性として見てよ……お兄ちゃんが私と一緒にお風呂に入ってくれてることから、お兄ちゃんが意識的に私のことを妹だからって異性として見ないのをやめようとしてくれてるのはわかってる……でも、きっとそれだけじゃまだ足りない……」


 ……結深の気持ちを考えれば、きっと今まで本当に辛いものがあっただろう。

 そして、俺が結深と向き合うと決めたことによってその辛さは無くなると思ったが、結深の言う通り俺はきっとまだまだ結深のことを異性としては見れていないんだろう。


「……お兄ちゃん、立って」

「……あぁ」


 俺は結深に言われた通りに立ち、結深の方を向────いた瞬間、結深は俺の方に迫ってきて、俺に顔を近づけてきた。

 俺は咄嗟に後ろに身を引こうとしたが、背中はすぐにお風呂場の壁についてしまったため、それ以上後に引くことができずに結深の顔が俺に近づいてくる────そして、唇と唇が重なりそうになる直前で、結深は俺に顔を近づけるのをやめて言った。


「私、あと少しでお兄ちゃんのファーストキス奪えちゃうよ」

「……そうだな」


 ────今まで結深に跨られた時とは違う、お風呂場で互いに服を着ずに、この距離で後少しで結深と唇が重なるこの緊迫感。

 唇……今まで結深の唇を近くでしっかりと見たことなんて無かったが、改めて近くで見てみると、結深の唇は艶があって柔らかそうな感じだ。

 顔は相変わらず整っていて、俺好みで────


「私にこのままキスされても、お兄ちゃんは何も思わない?今の段階では、どれだけ私のことを異性として見ようとしてもやっぱりまだ私のことを妹としてしか見れないの?」

「結深とこのまま……キスをしたら?」

「うん、このままキスをして、私もお兄ちゃんもタオルなんて脱いで、抱きしめ合いながらキスするの……それをしたとしても、お兄ちゃんは私のことを異性としては見れない?」


 結深と、キス……そして、タオルを脱いで結深と抱きしめ合う。

 ────今までにないほど俺に近づいている結深の顔を見ていると、なんだかそのことが鮮明に想像できて……いつの間にか、俺の心臓の鼓動はとても早まっていた。


「……」


 俺は、真っ直ぐ俺のことを見てくる結深から視線を逸らそうと下を向いたが、そこには結深の大きな胸元があり、俺はさらに心臓の鼓動を早めた────これは、恋心で心臓の鼓動が早くなっているわけではない……そうだ、これは────観雫に抱きしめられた時と同じような、異性を相手に感じるものだ。

 俺は、顔を上げて結深の両肩を軽く掴みながら言う。


「結深……もう、いい」

「よくないよ!私は────」

「そうじゃない……その、上手く言葉にできないんだが……」


 結深に対して今まで感じたことのない感情を抱き、それをどう言葉にすれば良いのかを戸惑っている俺のことを見て────


「お兄ちゃん、もしかして……」


 そう呟いた後、俺のことをしばらく見てその考えを確信に変えたのか、結深は今までに無いほど明るい表情で俺のことを抱きしめてきて嬉しそうに言った。


「お兄ちゃん!!」

「い、今は勘弁してくれ!」


 そう言った俺だったが、結深はここぞとばかりに俺のことを強く抱きしめてきて、自分が異性だということを物理的にも精神的にも俺に刻み込んできた。

 そんなことをされなくても俺はもう結深のことを異性として意識していたが────この日から、俺は本当の意味で結深のことを妹ではなく、異性として意識し始めることとなった。

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