第42話 観雫は嫉妬する
次の休み時間になると、俺は観雫と一緒に人気の無い屋上へとやって来ていた。
当然、怒っているであろう観雫のことを俺がわざわざ人気の無い屋上へ連れてくるわけがないので、ここにやって来たのは観雫に連れられてだ。
「観雫……やっぱり、怒ってるんだよな?」
俺がそう聞くも、観雫は何も答えなかった……やっぱり怒ってるな。
でも、確かに観雫から告白された直後に、その告白した相手が異性から抱きしめられていたことを聞かされれば、それも当然の怒りなのかもしれない。
「悪いと思ってる……でも、あの時はいきなり抱きつかれて────」
「私、別に怒ってるわけじゃないよ」
「え……?」
俺が一応抱きしめられた時の経緯を話そうとした時、観雫が俺の予想とは真反対のことを言った。
……怒ってるわけじゃ、ない?
「……嘘、ちょっとは怒ってるけど」
ちょっとは怒っているらしい……が。
「……ちょっと怒ってるってだけじゃないだろ?他に何か、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
そうじゃないと、観雫の目が笑っていないなんてことにはならないはずだ。
俺が確信を持ってそう聞くと、観雫はどこかぎこちない口調で話し始めた。
「一年ぐらい付き合ってると、私のこともだんだんとわかってくるんだね……言いたいことっていうか、すごくモヤモヤしてるんだけど────良いなって思った」
「……良いな?」
「うん……結深ちゃんは一入と同じ家に住んでて、一応妹だから一入との距離感も近くて、一入のことを抱きしめたりするのも私ほどハードル高くなくて、良いなって……あんまり言いたくないけど、嫉妬しちゃったってこと」
「……そうか」
……観雫が怒っているとばかり考えていた俺は、そっちの方に意識が行きすぎていて当然のことを忘れていたが、確かにそんなことを聞かされれば嫉妬してしまっても無理はない。
俺がそう納得していると────観雫が突然俺のことを正面から抱きしめてきた。
「観雫!?」
観雫が俺のことを抱きしめて来たことにより、甘い香りや観雫の手や腕などの体の感触を一気に感じて、俺は思わず驚きながらそう声を上げた。
そんな俺とは反対に、観雫は落ち着いた声音で言う。
「これで私が一入のこと抱きしめても仕方ない理由作りが終わったから、この休み時間の間はずっと一入のこと抱きしめてるね」
休み時間の間、ずっと……!?
「じょ、冗談だろ?」
「ううん、本当だよ……だって私、もう我慢しないって決めたから」
その観雫の声色には強い意志を感じ、その意志に呼応するように観雫は俺のことを抱きしめる力を少し強めた。
俺は、少し落ち着いて冷静に聞く。
「……こんなところ、もし誰かに見られたらどうするんだ?」
俺がそう聞くと、観雫は小さく笑ってから言った。
「昼休みでもないのにこの屋上に来る理由なんて無いから、誰にも見られないよ……それに、見られても一入と付き合ってるって噂されるだけでしょ?それだったら私は困らないし、むしろその噂が広まってくれた方が色々とやりやすいかもね」
「まだ付き合っても無いのにそんな噂────」
「なんて、少なくとも今はそんなことにならないと思うから平気だよ……本当、ずっとこうして一入のこと抱きしめてたい」
「……ずっとは困るな」
「じゃあ毎日一時間」
「それはもうずっとって言うんだ」
その後、観雫に抱きしめられながら俺たちはそんな話を続けていると、観雫が少し声音を変えて言った。
「ねぇ一入、一つだけずっと気になってることがあるんだけど聞いても良い?」
「……なんだ?」
俺のことを抱きしめてからはどこか軽い口調の観雫だったが、この観雫の声音から次に観雫から発される言葉は重たい内容のものだと確信することができた。
────そして、その予想通りに、次に観雫が発した言葉は声音も内容もとても重たいものだった。
「────実際、一入って結深ちゃんのことどう思ってるの?」
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