第41話 義妹は見せつけたい
結深にそう問い詰められた観雫は、一度俺に視線を送ってから結深に視線を戻して言った。
「私が一入のことを家に呼んだって……その話、一入から聞いたの?」
「ううん、結果的にお兄ちゃんは観雫さんの家に行ったことを認めたけど、それはお兄ちゃんから話してくれたことじゃなくて私が気付いたことだよ……お兄ちゃんから濃く甘い香りがしたから、観雫さんの家に行ったんじゃ無いかなって────それで、観雫さんがお兄ちゃんを呼んだって確信してるのは、お兄ちゃんが観雫さんの家に行きたいなんて言う理由が無いから」
結深がそう言うと、観雫は小さく頷く。
「なるほどね……でも、その言い方だと私には一入のことを私の家に呼ぶ理由があるみたいな言い方だよね?」
「それがわからないから、今こうして観雫さんに直接聞いてるの」
状況を理解した観雫は、少し口角を上げながら結深の問い詰めるような雰囲気からは生まれないはずの軽い口調で言った。
「結深ちゃんの言う通り、一入のことを私の家に誘いはしたけど、それは一入と私の家でお菓子を食べながら話をしたかったからだよ」
観雫は全く動揺した様子を見せずに嘘をついたが、結深はさらに追及する。
「お菓子を食べながら話をするだけだったら、外でもできることだと思うんだけど」
「家の中の方がパーティー感出て楽しくない?外とかだと周りの目もあるけど、家の中だったら周りを気にすることなく楽しめるからね」
「私の気のせいかもしれないけど、昨日お兄ちゃんからした香り……甘い香りがする部屋に居るってだけじゃなくて、その匂いを染み込ませるような香りの仕方────そう、例えばその甘い香りがする人本人から直接抱きしめられたみたいな香りの仕方だったんだけど、何か心当たりない?」
「何が言いたいのかわからないけど、私と一入は友達だからそういったことは無いよ」
「……」
「……」
鋭い目つきで観雫のことを見る結深とは対照的に、観雫は普段と変わらない、もしくは普段よりも少し穏やかな目つきで結深のことを見ていて、二人は少しの間互いのことを静かに見つめ合った。
……が、その沈黙を破ったのは結深だった。
「まぁ、どっちでも良いけどね〜!昨日はお兄ちゃんが家に帰って来た後、お兄ちゃんからその香りが無くなるまでずっとお兄ちゃんのこと抱きしめ続けたから!ね、お兄ちゃん!」
そう言って俺に抱きついてこようとする結深を避ける。
「抱きついてくるな!」
「昨日あんなに抱きしめたんだから良いじゃん!観雫さんにも私たちのイチャイチャを見せつけちゃおうよ!」
そう言って繰り返し俺のことを抱きしめてこようとする結深のことを避け続けていると、観雫が言った。
「へぇ、そうだったんだ……昨日は、結深ちゃんがいっぱい一入のこと抱きしめたんだね」
観雫は、さっきまでと変わらないような表情と口調でそう言った。
結深は、観雫の反応が薄いことに少し眉を顰めていた────が。
俺にはわかる……今の観雫は間違いなく怒っている。
何故そう言い切れるのか……これはきっと、一年近く一緒に観雫と居る俺だからわかることで、結深にはわからないことだと思うが────観雫の目が全く笑っていない。
俺のことを見て、明らかに良くない感情を視線で送りつけて来ている。
「そろそろ教室行かないと間に合わないかもしれないから、私行ってくるね〜!お兄ちゃん、今日は観雫さんと遊んだりせずに早く帰ってきてね!」
「あ、あぁ」
俺は観雫の視線に動揺しながらそう答えると、結深はこの教室を後にしてしまった。
そして、観雫はただ一言だけを俺に伝えた。
「……朝の時間はもうほとんどないから、また次の休み時間にね」
「……そうだな」
────俺はその観雫からの言葉を受けて、一秒でも長く次の休み時間が来るまでの時間が伸びるようにと祈ったが、こういう時に限って授業の時間がとても早く感じて、次の休み時間はあっという間にやって来た。
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