第39話 観雫は宣言する

「こ、こっちのって……」

「えっちな方……って言ったらわかるよね?」


 ベッドの上で足を開けている観雫のことを見れば、当然その意味は理解できる。

 理解できる……が。


「どうして、いきなりそんな……普通は、もっと段階を踏んでいくものじゃないのか?」

「今は私がどれだけ一入のことを好きなのかを一入にわかって欲しいってだけだから、別に今からしようって言ってるわけじゃないよ────でも、もし今一入がしたいって言ってくれるなら、私は本当に今すぐにでも一入としたいって思えるぐらいに一入のことが好きってこと」


 観雫は、真剣な眼差しで俺のことを見ながらそう言った。

 ……観雫が、本当に俺のことを好きで居てくれているんだということが伝わってくる。


「……観雫の気持ちは十分わかった、とりあえず一度服を着直してくれないか?」

「目のやり場に困るから?それならさっきも言ったけど、私は一入にならどれだけ見られたって────」

「違う、観雫が魅力的だから、そんなに体を露出させられてると話に集中できない」

「っ……!」


 俺が素直にそう伝えると、観雫は少し口角を上げて、俺に近づいてきた。


「へぇ、一入私の下着と体見て魅力的だと思ってるんだ〜」

「からかうな!』

「ふふ、ごめん、でも────」


 観雫は、俺の後ろから俺のことを抱きしめるようにしながら俺の耳元に甘い声で囁くようにして言った。


「私は一入のことが好きだから、我慢できなくなったら私のこと好きにしていいよ」


 観雫の上はほとんど下着姿のため、そんな状態で抱きしめられると背中に柔らかい感触が────じゃない!


「からかうなって言ってるだろ!」


 その後、観雫は何度か俺のことをからかってきたが、ようやく服のボタンを閉じてブレザーを着直し、服を元の状態に戻してくれた。

 そして、観雫は落ち着いた声音で言う。


「私が一入に初めてをあげられるってだけだと、それはきっと結深ちゃんも同じだろうからまだ結深ちゃんよりも一入のことが好きなことをわかってもらえるのは難しいよね────だから、今後の行動で示していくことにするよ」

「今後の行動……?」


 俺がそう聞き返すと、観雫はベッドから立ち上がって俺の方を指差しながら笑顔で口を開いて言う。


「今後はもうアタックするの我慢しないから、覚悟しててね」


 今まで結深のことで相談に乗ってくれていた観雫が、今度は俺にアタック……どうやら、本当に覚悟した方が良さそうだな。

 その後、観雫の家から出て家に帰った俺は、結深に出迎えられた。


「おかえり!お兄ちゃ────え?」


 結深は、何故か驚いた表情をすると、俺に近づいてきた。


「結深……?どうかしたのか?」


 そして、俺の制服の匂いを嗅ぐと、一度目を見開いてから今度は表情を訝しげな表情へと変化させて言った。


「……お兄ちゃんの服から甘い香りがするんだけど、どうして?」


 俺の服から……甘い香り?

 ……もしそんな香りがするんだとしたら、きっとそれは観雫と会っていたからだろう。


「それは────」

「どうせ観雫さんと会ってたんだよね?そのことは聞かなくてもわかるよ」


 俺が言おうとしたことを結深もわかっていたようで、俺の言葉を遮ってそう言った。

 ……だが、そのことがわかっているなら他に何が聞きたいんだろうか。

 そう思っていると、結深は口を開いて言う。


「でも、この香りは今までと濃さが違うよ────お兄ちゃん、観雫さんの家に行ったり、もしかしたら観雫さんに抱きしめられたりしたんじゃない?」


 そう問いかけてくる結深の表情は、もはや感情を覗かせることもないほどに冷たいものとなっていた。

 ……さっきの観雫のことはとても大きなことで、家に帰ったら色々とゆっくり考えられると思っていたが────どうやら、そういうわけにもいかないらしい。

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