第36話 観雫の告白

 落ち着け、落ち着け俺。

 観雫の部屋で観雫と二人きりになり、今までに無い緊張感を抱いている自分自身に対して、俺は心の中でそう言い聞かせる。

 観雫と二人きりになることなんて今まで何度もあったし、それこそ同じ個室空間のカラオケに行った時はこんな緊張感を抱かなかったはずだ。

 そうだ……カラオケの時と同じだと思えば────


「……」


 そう思って部屋を見渡してみたが────無理だ!

 初めての女子の家で初めての女子の部屋で、カラオケと同じなんて思えるはずがない。

 緊張で頭が埋め尽くされそうになった俺だったが────ここが女子の部屋ではなく、友達の部屋だと認識すれば、少し心が落ち着いた。

 そして、心が落ち着いたタイミングで俺は観雫に聞く。


「それで観雫、俺に伝えたいことっていうのはなんなんだ?」


 俺がそう聞くと、観雫は落ち着いた様子で言う。

 

「急かしすぎじゃない?初めての女子の家で、初めての女子の部屋で、初めての私の部屋なんだから何か感想とかないの?」

「感想か……」


 観雫の部屋は大体が白色の家具が使われていて、部屋の隅には一つだけ観葉植物が置いている。

 シンプルにオシャレな感じで、観雫らしさを感じる部屋模様だ。


「観雫らしくてオシャレな部屋だと思う」

「……ありがと」


 いざ褒められると少し恥ずかしかったのか、観雫はどこか照れた様子だった。

 そして、観雫に言われて俺と観雫は対面になるように低い円形のテーブルを挟んでカーペットの上に座った。


「女子の家に来たのは私の部屋が初めてってことは、一入にとって私が初めての女ってことだよね」

「もう少し他にも言い方があるだろ?」


 俺がそう言うと、観雫は小さく笑う。

 ……何となく、今日の観雫はいつもよりも少し楽しそうな気がする。


「そうだ、一応言っておくけど、私が男子を家に上げるのも部屋に入れるのも一入が初めてだから」

「そうか……今までの観雫の話を聞いていたから今更驚きはしないが、やっぱり意外だな」


 まだ観雫とほとんど関わりがなかった時は、観雫の容姿や雰囲気なら、平気で男子のことを家に上げていても全く不思議はなかった。

 そう見えるほどに、観雫はどこか経験豊富そうで、大人びているように見える。


「男子を家に上げるって結構勇気いるんだよ?それこそ、何をされてもいいぐらいに思ってる人じゃないと上げないよ」


 確かに、実際問題女子が男子を家に上げるというのは、かなりその人のことを信頼していないと難しいだろう……だが。


「何をされてもっていうのは、少し大袈裟じゃ────」


 俺が思ったことをそのまま伝えようとした時、観雫はそれを遮って言う。


「大袈裟じゃないよ、私は本当にそう思ってる」


 大袈裟じゃない……本当にそう思ってる?

 ということは、観雫は俺に何をされてもいいと思ってるってことか……?


「……」


 俺と観雫の間に信頼関係がどれだけあったとしても、その信頼関係というのは何をしてもいいというものではなく、してはいけないことをしないという信頼のはずだ……だから、友達間で何をされてもいいなんていう言葉が出ることは本来ありえないはずだ。

 何をされてもいいと思える関係、それはもはや友達という関係ではなく────


「あと、今日伝えたいことなんだけど、私が男子を好きになったのも一入が初めてだから」

「……え?」


 観雫が男子を好きになったのも、俺が……初め、て……?

 俺がその言葉をそのまま飲み込むことができずにいると、観雫が俺に顔を近づけてきて、真剣な顔つきをしながらハッキリとした口調で言った。


「聞こえなかったなら何度でも言ってあげる……私は、一入のことが好きなの」


 観雫に真っ直ぐ俺の目を見ながらそう告げられ、俺は今までの人生で一番の衝撃を受けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る