第34話 義妹と向き合う

「お兄ちゃんのお願いだったらどんなお願いでも聞いてあげたいけど、そのお願いだけは聞いてあげられないかな……私はお兄ちゃんの妹じゃなくて、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになりたいから」

「っ……!」


 そう言われた俺は、思わずショックを受けそうになったが、今はショックを受けている場合じゃない。

 少しでも結深の考え方を変えられるように、兄として言葉を伝えるときだ。


「……考え直してくれないか?好きな人とか、恋人とか、結婚したい相手とかはこれからの長い人生で他にできる可能性はいくらでもあるが、兄妹っていう関係性はもう今後ほとんどできないかもしれないんだ」

「好きな人とか結婚したい相手が、他にできる可能性はいくらでもある……?」


 結深は、俺の上に跨ったまま俺に覆い被さるようにして俺に顔を近づけて来た。


「お兄ちゃんはやっぱり、私のこと何もわかってないよ……私の人生で好きになる人も、結婚したいって思う人もお兄ちゃんだけ、これから私がどんな人生を生きていくとしてもそれだけは今断言できるよ」

「それは、まだ高校生の結深の見解だ、大学生とか、社会に出たりしたら結深がもっと好きになれる人が────」

「お兄ちゃんは、私と兄妹としての繋がりに重きを置いてるみたいだけど、それだったらどうしてお兄ちゃんの代わりなんて他に誰も居ないってわかってくれないの?」


 ……その言葉に、俺は何も言うことができなかった。

 確かにそうだ……俺にとって結深が妹としてとても大切な存在なのだとしたら、結深からしたら俺もそれぐらい大切な存在で────俺の感じてる繋がりは兄妹としてのものだったが、結深が感じているのは恋愛としてのもの……そうか。


「今の言葉は────違うな、今だけじゃなくて、今まで俺が悪かった……俺が勝手に、結深にとって大事なのは兄妹っていう身近な拠り所だと勝手に思い込んで、それが絶対に正しいものだと信じて、今まで結深のその気持ちにちゃんと向き合うことができなかった」


 俺がそう伝えると、結深は俺のことを優しく抱きしめて優しい声で言う。


「わかってるよ、お兄ちゃん……お兄ちゃんが優しいのは、私が誰よりもわかってるから……でも、ようやく私の気持ちを本当の意味でわかってくれたんだね」

「あぁ……わかった、これからはちゃんと結深と向き合っていくことを約束する」


結深は顔を上げて、目に輝きを取り戻した嬉しそうな表情で長袖シャツを脱ぎ、上半身を下着姿にして頬を赤く染めながら言った。


「お兄ちゃん……じゃあ、今から私としてくれるよね?」


 続けて自分の背中に手を回して、その下着も脱ごうとした結深だったが────


「しない」

「……え?」


 俺のその言葉を聞いて、思わずその手を止めた。

 そして、慌てた様子で言う。


「ど、どうして!?今のはする流れなんじゃないの!?」

「そもそも結深は勘違いしてるんだ、俺が観雫としたのは、観雫にご飯を食べさせられたり、観雫と手を繋いだりしたことで、結深が思ってるようなことはしてない」

「っ……!そう、だったんだ」


 結深はどこか安堵したような雰囲気だった。


「俺は少なくとも、もう今までみたいに結深のことを妹としてしか見てはいけないとは思わない……だが、だからと言ってそんなことをいきなりするのはおかしいだろ?」

「……本当に、観雫さんとしてないんだよね?それは嘘じゃ無いんだよね?」

「あぁ、してない」


 俺がハッキリそう伝えると、結深は俺の上からゆっくりと降りて、上に長袖シャツを着て言った。


「お兄ちゃんと観雫さんがしてないなら私が強引に今日お兄ちゃんとする理由は無くなったから今日はしない────けど」

「けど?」


 結深は俺の腕を引っ張って歩きながら言った。


「観雫さんにご飯食べさせられたり、観雫さんと手繋いだりもしたんだったら、私もお兄ちゃんとそれする!今からご飯作るから、それをお兄ちゃんに食べさせてあげて、後でお兄ちゃんとどこかに出かけて手も繋ぐ!」


 その後、本当に俺は結深にご飯を食べさせられ、一緒に買い出しに行ってしっかりと手も繋がれた────今日で結深との関係性が変わる大きな一歩を進み始めたような気もするが、これからもまだまだ大変なことは続きそうだな。

 そのことに心労が絶えないと思いながらも、どこかそんな日常を好きだと感じている自分も居た。

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