第32話 義妹は忘れさせる
「ただいま」
観雫と手を繋いで帰路を歩いた俺は、途中で観雫と離れて一人で家へと帰った。
もう観雫との手はとっくに離れているのに、まだ観雫と手を繋いでいる時の温かみが手に残っているような気がする。
「おかえり、お兄ちゃん……今日はちょっと遅かったね、何してたの?」
「あぁ、友達と遊びに行ってたんだ」
俺は、いつものようにそう返事をしながら頭では別のことを考える。
観雫と手を繋いだ……普通なら友達同士でするようなことじゃない、カップルがするようなことだ。
「友達って、観雫さんのことだよね?」
「そうだ」
聞かれたことに短く答え、俺は頭の中で引き続きそのことを考える。
普通はカップルとするようなことを、観雫とした。
嫌悪感とか、そこまではいかなくても友達と手を繋ぐなんて抵抗感がある、と思っていた俺だったが、観雫と手を繋ぐことには嫌悪感や抵抗感すら感じなかった。
観雫の言っていた関係性が変わるというのは、もしかして────
「そうだ……?」
俺が頭の中でそんなことを考えていると、結深がとても暗い声で疑問の声を上げた────ちょっと待て。
「……」
まずい、頭の中で考え事をしていたから今までのように友達と出かけに行ったとか言ってしまったけど、そもそもその友達というのがもう俺にとって異性である観雫だってことは結深にバレているし、それだけならまだ良かったかもしれないがその友達が観雫かと聞かれて俺はしっかりと「そうだ」と答えてしまった。
「私に対して平然と他の女と遊んだことを伝えるなんて、私のことなんてどうでも良くなるぐらい大きなことを観雫さんとして、そのことでも思い出してたのかな?それとも、単にもう私に観雫さんと関わってることがバレたからって開き直ってこれからはしっかりと公言して、私に皮肉を言うみたいに堂々と観雫さんと二人きりで遊ぶってこと?」
「待ってくれ、確かに観雫と遊ぶことに制限を設けられるのは嫌だと思っているが、別に皮肉で言ったわけじゃない」
「じゃあ最初に言った、私のことなんてどうでも良くなるぐらい大きなことを観雫さんとしちゃってそのことを思い出してたの?」
「大きなことなんてしてるわけ────」
と今まで通り反論しようとした俺だったが、今日観雫にタルトを食べさせられ、帰りには手を繋いだ光景が思い浮かび、その反論する口を一瞬閉じてしまった。
そして、それを見逃すはずもない結深は目のハイライトを暗くして言う。
「え?本当にしたの?」
大きなこと……をしたのかどうかと言われれば、難しいところだ。
タルトを食べさせられたり、手を繋いだりするのは、異性であっても本当に仲の良い友達だったとしたらギリギリしても許容範囲なはずだ。
国が違えばそんな光景は容易に見ることができるだろう。
……だが、かと言って何もしていないと言うのも無理がある話────と、俺が結深に何も答えられずにしばらく考え込んでいると、結深は突然俺の腕を引っ張って階段を登った。
結深に腕を引っ張られている俺も、当然階段を登ることになる。
「ゆ、結深!?」
驚いた反応を見せた俺のことを無視して、結深はそのまま階段を登り俺の部屋のドアを開けると、俺のことをベッドに連れ込んで押し倒した────直後、俺が一体何が起きているのかと困惑している間に、結深は俺の上に跨った。
「ま、待て結深!何をする気────」
俺が結深にこの状況について説明を求めようとした時、結深は俺の上に跨りながら俺のことを抱きしめて、俺の耳元に甘い声で囁くように言う。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん……観雫さんとしたことなんて、今すぐ忘れさせてあげるから」
結深は目のハイライトを消し、頬を赤く染めて微笑みながらそう言った。
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