第31話 観雫に初歩を教わる
────放課後、観雫に連れられてやって来たのはスイーツ店。
主にパフェなどを売っている店で、周りを見てみても女性客か男女二人組のおそらくはカップルと思しき人たちしかいない。
「……スイーツを食べたら俺たちの関係性が変わるのか?」
「余計なこと考えなくて良いよ、それより一入はどれ食べたい?」
観雫の口ぶりからして、変に意識しすぎなくても良さそうなため、そういうことなら今はとりあえずこのスイーツ店を満喫することだけを考えよう。
観雫が広げたメニュー表を見て、俺はどれを食べたいかを決める。
「……この色々なフルーツが乗ってるやつがいいな」
「フルーツタルトね、じゃあ私もそれにする」
そして、俺たちは二人とも同じフルーツタルトを注文し、少しの間待っているとすぐにそのフルーツタルトが二人分俺たちの席まで運ばれてきた。
「美味しそうだね」
「そうだな、食べてみよう」
そう言って、俺が自分の前に置かれているスプーンを取ろうとした時────目の前に居る観雫が、そのスプーンを取った。
「え……?」
観雫の行動に疑問を抱いていた俺だったが、観雫は俺のフルーツタルトの一部のそのスプーンに乗せると、それを俺の口元に差し出してきて言った。
「一入、口開けて、私が食べさせてあげる」
「は、はぁ……!?」
俺はその突然の不可解な言動に驚き、首を横に振って言う。
「食べさせてあげるって、そんなこと受け入れられるわけないだろ!?大体、周りにどれだけ人が居ると思って────」
「この店なら男女で食べさせ合うぐらい普通だって……それに、言ったでしょ?『私と一入の関係が、これからどう変えることができるのか、その初歩を教えてあげる』って」
「変えるって……それは────」
「大きく口開いたね」
そう言うと、観雫は俺の口にそのスプーンを入れた。
……一度口に入ったフルーツタルトを食べないわけにはいかないため、俺はそれをしっかりと喉に通す。
「味はどう?」
「味は美味しかったが……それよりも、関係性が変わるって、これじゃまるでカップルみたいだ」
「そうだよ?今回はどう関係性が変わることができるのかの初歩を教えてあげるってだけなんだから」
観雫が落ち着いていることからもわかるが、あくまでも恋愛感情があってしていることではなく俺にそのことを教えるためにしているということか……だが。
「それなら、わざわざ実践に移さなくても口で言ってくれれば良かったんじゃないか?」
俺がそう聞くと、観雫は頬を赤く染めて言った。
「それは、その……こ、こういうのは実践するのが一番でしょ?」
「そういうものか?」
「そういうもの!」
その後、二人で美味しくフルーツタルトを食べ終えた俺と観雫は、一緒に店から出て帰路を歩き始めた。
普段はあまり楽しそうな顔を見せない観雫は、遊びに行く時はよく楽しそうな顔を見せてくれるから観雫と一緒に遊びに行くのは楽しいと感じるが、今日はいつも以上に楽しそうだったな。
そんなことを考えながら歩いていると────観雫が、突然俺と手を繋いできた。
「観雫!?」
当然、俺がその行動に驚いていると、観雫が頬を赤く染めながら言った。
「こ、これも初歩を教えてあげるためだよ……それに、前結深ちゃんとだってしてたじゃん」
……そういえば、あの日のことは観雫に見られてしまっているんだったな。
「……痛いところを突いてくるな」
俺からしたわけではないといえ、結果的に断らなかったのだから言い訳のしようもないし、言い訳をしたら本当に何かやましい気持ちがあったという雰囲気に取られてしまいかねないため、ここで何か余計なことを言うのはやめておこう。
俺がそんなことを考えていると、観雫が俺の手を握る力を少し強めて言った。
「だから……いいよね」
「……あぁ」
その後、俺と観雫は二人で手を繋ぎながらそのまま静かに帰路を歩いた。
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