第30話 観雫は教えたい

「昨日、あの後結深ちゃんと変なことしなかった?」


 教室の自分の席に座って早々、観雫にそんなことを聞かれた。


「してない、昨日観雫のことを家まで送り届けた後も結深に似たようなことを聞かれたな、観雫と変なことをしてないかって」

「それで、一入はなんて答えたの?」

「俺と観雫がそんなことするわけないって答えた」


 それを聞いた観雫は、どこか暗い表情で「へぇ、そうなんだ」と言った。

 ……何か思うところがあったんだろうか。


「どうかしたのか?」

「別に?確かに、私と一入がそんなことするわけないもんね」

「あぁ、ない」


 即答すると、観雫は少しだけ拗ねた様子になった。

 ……観雫と同じ意見を言っただけなのに、どうして観雫は機嫌を悪くしているんだ?

 そのことに困惑していると、観雫は一度大きなため息を吐いて口を開く。


「ねぇ、私って魅力ない?」

「魅力……?見た目の話か?」

「うん、見た目とか性格とか」


 観雫の見た目や性格に魅力があるのか……それには、当然即答することができる。


「前にも言ったと思うが、観雫の容姿は魅力的だし、性格だって良いと思う、じゃないと俺がここまで観雫と仲良くなることなんてなかっただろうからな」


 観雫の見た目は当然良いし、性格だってもし良く無いと感じたなら俺が観雫とここまで仲良くなるまで関わることもなかっただろう。

 俺が思っていることをそのまま伝えると、観雫が少し突拍子もないことを言った。


「でも、その割には一入って私のこと女として見てないよね」

「あのな、俺が友達のことをそんな目で見るわけないだろ?」


 俺が当たり前のことを言うと、観雫は少し間を空けてから真面目な面持ちで言う。


「……どうして、一入は私と友達で居ることにこだわるの?」


 友達で居ることにこだわる。

 少し不思議な言葉だ────が。


「こだわってるつもりはない、ただ俺たちは友達だから友達ってだけの話だ、それ以上でも以下でも────」

「私たちの関係性は、友達ってだけで止まらずにもっと別のものに変えることだってできるんだよ?」


 表情や声音は特に変わらないが、口調や雰囲気から観雫にしては少し珍しく言葉に熱意が込められているのがわかる。

 関係性を変えることができる……


「それは、昨日話してた俺と観雫はただの友達じゃないとか、観雫は俺の味方だけど友達じゃない別の関係性になりたいとも思ってる、みたいな話と何か関係があるのか?」

「そう……一入が、結深ちゃんと兄妹で居たいってことにこだわる気持ちは理解できるよ?血が繋がってなかったとしても兄妹は兄妹だし、一入にも色々と考えがあるんだと思う……でも、私と一入は血も繋がってなければ家族ってわけでもない────高校生の男女の友達……だから、私たちの関係性は自由に変えて良いんだよ」


 確かに、結深との関係性はともかくとしても、観雫とは本当にただの友達だから、関係は自由に変えても良いだろう。


「それはわかるが、そもそも関係性を変えるって言っても、今のままでも十分仲が良いし、これ以上何を変えることがあるんだ?」


 俺がそう聞くと、観雫は俺のことを静かに見つめて、十秒ほど経ってから言った。


「一入……今日、私と出かけに行かない?」

「出かけ……?どこか行きたいのか?」


 そう聞いた俺だったが、観雫は小さく首を横に振って言う。


「ううん────私と一入の関係が、これからどう変えることができるのか、その初歩を教えてあげる」


 観雫は、少し笑ってそう言った。

 初歩……言葉を聞くだけでは理解できないが、それで観雫の言っていた言葉の意味がわかると言うのであればそれに乗らない手は無い。


「わかった」


 そう返事をして観雫の誘いに乗った俺は、その日の放課後観雫と一緒に出かけることにした。

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