第29話 義妹は宣言する
観雫を送り届けて家に帰った俺は、どこか不機嫌な様子の結深に出迎えられた。
「おかえりお兄ちゃん、歩きでこのぐらいの時間に帰って来たってことは観雫さんと変なことはしなかったみたいだね」
「はぁ……俺と観雫がそんなことするわけないだろ?」
呆れながらそう返事をして玄関に上がった俺に、結深は言った。
「お兄ちゃんが、本当は女と関わってたのに関わってないって嘘ついたこと、私まだ許してないよ」
「……そうか」
「────でも」
結深はそう付け加えると、どこか明るい表情で言った。
「お兄ちゃんが本当は他の女と関わってたって知れたおかげで、私はお兄ちゃんが他の女に取られるのが絶対に嫌なんだって、やっぱり私はお兄ちゃんのことが本当に大好きなんだって改めて気付けた……だから、やっぱりお兄ちゃんのことは誰にも渡さないし、お兄ちゃんと結婚するのは絶対に私だから!」
明るい表情でそう元気に宣言した結深のことを見て、俺も少し釣られて明るい声音で言う。
「結婚……か、前から思ってたことだが、付き合って恋人になるとかじゃなくて、もう結婚のことを考えてるんだな」
「どうせ全部するんだから、最後にすることを言った方が楽しいじゃん!」
「俺たちは兄妹だから、そんなことはしないけどな」
そう言った俺のことを、結深は抱きしめてきて言った。
「もう、そんなこと言えないぐらいに私のことを魅力的だってお兄ちゃんに思わせて見せるから……」
……結深は何もわかっていない。
俺は────初めて出会った日から、結深のことを魅力的だと思っている。
何度も言っているが、結深は何から何まで俺のタイプで、結深と初めて出会った一年前もそれは変わらない。
しかも、そんなにタイプな人物が、今後義妹として俺と同じ家に住む。
色々と葛藤はあったが、それでも俺は────身寄りのない結深のために、俺だけは絶対に結深の兄で居続けると心に決めた。
だから……絶対に譲れない。
結深に抱きしめられながらそのことを改めて心に決めていた俺だったが、結深は俺の耳元で落ち着いた声音で言った。
「ねぇ、お兄ちゃん……さっき私が『観雫さんと変なことはしなかったみたいだね』って言ったら、お兄ちゃん呆れたみたいに『俺と観雫がそんなことするわけないだろ?』って言ってたよね?」
「言ったが……それがどうしたんだ?」
「人はいつ変わるかわからないし、その関係性もいつ変わるかわからないよ……それで、もし変わったとしてもそれは何も悪いことじゃないと思うの……当然、それは観雫さんだけじゃなくて私だってそう」
そう言った後、結深は俺のことを抱きしめるのをやめた。
人や関係性はいつ変わるかわからないし、変わったとしてもそれは悪いことじゃない……そうなのかもしれないが、俺は────
「じゃあお兄ちゃん!観雫さんも居なくなったことだし、今から私と二人で一緒にお風呂入ろうよ!」
結深の発言に対して深く考えている俺だったが、その考えを結深の発言によって吹き飛ばされてしまった。
「はぁ……!?入るわけないだろ!」
「あ、観雫さん居なくなったからお互いにタオルしなくて良いよね?兄妹水入らずってことで!」
「一緒にお風呂に入る前提で話を進めるな!仮に一緒にお風呂に入るとしても、タオルはしないといけないに決まってるだろ!」
「じゃあタオルして一緒に入る?」
「仮に入るならって話だ、そもそも俺と結深は一緒にお風呂には入らない、昨日入ったのはイレギュラーだ」
「え〜!それだったら一緒に寝るので我慢する〜!」
「それもダメだ!」
その後は考えごとをする暇なんてなく、とにかく俺とお風呂に入ったり一緒に寝ようとして来たりする結深のことを躱すので精一杯だった……が、俺は眠る前に少し思ったことがあった。
────本当にこのままで良いのだろうか、と。
「……」
そのまま考え込みそうになった俺だったが、今はとりあえず睡眠を優先して眠りへと落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます