第28話 観雫は別の関係性になりたい

 ────その夜、全員で俺の部屋で寝ることが決定し、俺のベッドでは俺が寝て、結深と観雫は布団を敷いて寝ることになった。

 俺としてはベッドを譲っても良かったが、結深と観雫が互いのことを俺のベッドで寝させたく無いというのと、俺が布団を敷いて床に寝た場合結深か観雫どちらかと寝ている時の距離が縮まるというのが良く無いと言うことで、俺はそのままベッドで眠った。

 そして、次の日の朝、結深は朝からとても元気な声で言った。


「はい!観雫さんのお泊まり終わりだから、観雫さんは早く荷物持ってこの家から出て行って!」


 元気かつ笑顔だが、言っていることは割と酷いことだ。

 だが、観雫はそれを聞いて落ち着いた様子で言った。


「確かにお泊まりは今日で終わりだけど、とりあえず今日の夜までは私ここに居るよ」

「なんで!?」


 観雫のその発言に、結深はとても驚いた様子だった。


「だって、私が居なくなった後で結深ちゃんが一入にどんな変なことするかわからないでしょ?」

「……もう〜!」


 その後、本当に観雫は夜になるまでこの家に居座り、夜になると帰ると言って玄関に向かったため、俺と結深も玄関に向かう。

 そして、俺は結深に伝える。


「結深、俺は今から観雫のことを家まで送り届けてくるから、結深は留守番しててくれ」

「え〜!別に送らなくてもいいじゃん!」

「外はもう暗い、観雫一人で帰すのは心配だ」


 俺がそう言うと、結深は少し俺のことを見てから心配した様子で聞いてきた。


「お兄ちゃんがそう言うならわかったけど……絶対、すぐ帰ってきてね?間違えても、そのまま観雫さんの家行ったりしたらダメだからね?」

「わかってる……っていうことで観雫、家まで送らせてもらう」

「そういうことなら、お言葉に甘えちゃおっかな」


 ということで、俺と観雫は結深に見届けられながら玄関から出て、二人で一緒に観雫の家へと歩き始める。

 その道中、俺は観雫と一緒に昨日と今日のことを振り返ってみることにした。


「昨日、観雫が俺の家に泊まるって言い出した時はどういうことかわからなかったけど、結果的にはそれが良い方向に傾いたかもしれないな」

「そうでしょ?あのままだと、結深ちゃん本当に何してたかわからないからね」

「あぁ、あの調子ならとりあえず明日の日曜日も何かされる心配はなさそうだ」


 その後も少しの間昨日と今日のことを振り返っていると、観雫は立ち止まって真面目な顔つきになって言う。


「ねぇ、一入……一入にどうしても伝えておきたいことがあるの」

「なんだ?」


 そう言って俺が観雫の顔を見ようと観雫の方に顔を向けた時────観雫の顔が思っていたよりも俺に近づいていて少し驚いたが、観雫はその真っ直ぐな瞳で俺の目を見ながら言った。


「私は一入の、ただの友達じゃないよ」

「……え?」


 ただの友達じゃ……ない?

 その言葉の意味が理解できない俺だったが、観雫はさらに言葉を続ける。


「私は一入の味方で居ながら、一入と友達じゃない別の関係性になりたいと思ってる」

「観雫、言っている意味がわからな────」

「今言えるのはこれだけだからこれ以上聞かないで、これでも……結構、頑張ったんだから」


 そう言うと、観雫は再度歩き出した。

 ……その言葉の意味がわかりそうでわからなかった俺は、なんとなくモヤモヤしたものを抱えながら観雫と一緒に歩き始め、二十分ほどすると観雫の家に到着した。


「送ってくれてありがとね」

「別にいい……じゃあ、また月曜日に学校でな」


 そう言って自分の家に足を進めようとした俺のことを、観雫の声が止めた。


「待って!」


 そう言われた俺は、自分の家に足を進めるのをやめて観雫の方を見た。

 すると、観雫は頬を赤く染めながらどこか恥ずかしそうに言った。


「その……今日じゃなくても良いから、今度……私の家、来てくれない?」


 今日は結深にすぐ帰ってくるように言われてるから、観雫が気を遣ってくれているように今日は難しい────が。


「わかった、行こう」


 それ以外の日なら断る理由もないため、俺は頷きながらそう返事をした。


「っ……!約束だからね!」

「あぁ、約束だ」


 笑顔の観雫にそう答えると、今度こそ俺は自分の家へと足を進め始める。

 ────観雫との関係性も、今後少しずつ変わっていくんだろうか。

 将来のことは今考えてもわからなかったが、変わっていくんだとしたら、それはそれで楽しみな気もした。

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