第27話 義妹と観雫は狙い始める

「……はぁ」


 お風呂から上がって着替え、髪を乾かした俺は、ようやくリビングの椅子に座って一息ついていた。

 お風呂に浸かるよりもリビングの椅子に座った方がリラックスできるなんていうことはそうそうないことだと思うが、今日に限ってはこの椅子の方がリラックスできそうだ。


「……」


 なんだか、自分のことが少しよくわからなくなった気分だ。

 結深は妹で、観雫は友達……ずっとそう思ってきたし、今だってそう思っている。

 だが────もし本当に妹や友達だと考えているのだとすれば、タオルが巻かれている状態で体が密着してきたことを意識するんだろうか。

 ……する、するはずだ。

 精神的なものならともかく、物理的なものだったら誰だってするはずだ。

 だから結深は妹で、観雫は俺の友達……そのことに、嘘偽りはない。

 俺が改めてそう考えを固めていると、結深と観雫の二人が服を着てリビングへとやって来た────かと思えば、結深が俺の近くまで来て言った。


「お兄ちゃん、私とのお風呂どうだった?」

「どうだったって……何がだ?」

「だから!私とお兄ちゃんが入る初めてのお風呂で、お兄ちゃんはタオルを巻いてるとはいっても私の体とか初めて見たでしょ?私が聞きたいのはその感想だよ!どうだった?」

「……どうだったって言われても、どうとも答えづらいな」


 俺がそう答えると、結深がすぐ後ろに居る観雫の方を一度見てから言った。


「そうだよね!観雫さんが居る前じゃ、仮に私のこと可愛いとか、女として魅力的だって思ったとしても答えづらいよね!」


 明るい声音で結深がそう言うと、今度は観雫が暗い声音で俺に向けて言った。


「へぇ、一入結深ちゃんのことそんな感じに思ったんだ」


 言われる筋合いのことを勝手に言われてしまった俺は、それに対して全力で否定の声を上げた。


「お、思ってないし、答えづらいって言ったのはそういう意味じゃない!」


 そう弁明した俺だったが、結深がさらに余計なことを言ってきた。


「嘘つかなくて良いのに〜!今度観雫さんが居ない時に、二人でゆっくりお風呂に入ろうね!」

「入らない!」


 俺と結深がそんな言い合いをしていると、観雫が俺の隣に座って俺に顔を近づけて言った。


「じゃあ一入、私はどうだった?」

「どうだったって、何がだ?」

「だから────」


 観雫が何かを言いかけたところで、結深がその間に割って入って俺と観雫の座っている椅子の距離が開くように椅子を横に押した。

 そして、さっきは明るい声音で話していた結深が、今度は暗い声音で言う。


「観雫さん、お兄ちゃんとそのぐらい距離を近くして話して良いのはこの世界で私だけだから、観雫さんはそんなことしたらダメだよ」


 結深がそう言うと、観雫はあくまでも落ち着いた声音で言った。


「そうだよね、一入と近い距離で話していいのは妹の結深ちゃんだけだもんね」

「近い距離、とかじゃなくて本当ならお兄ちゃんと私以外の女に話して欲しくないんだけど?」

「そっか、妹の自分だけが一入と話したいんだね」

「……」

「……」


 そう言って、二人は静かに睨み合いになった。


「……」


 俺は、少し前から薄々思っていたことを直接二人に聞いてみることにした。


「二人とも、普段とどこか様子が違わないか?」


 俺がそう言うと、結深は落ち着いた声音で言った。


「当たり前じゃん、そもそも私はお兄ちゃんに他の女と関わって欲しくないと思ってるんだから」

「それはそうだが……もう少し、どうにか仲良くできないのか?」


 そう言うと、今度は観雫が落ち着いた声音で言う。


「私は結深ちゃんと仲良くしたいけど、結深ちゃんがそういう考えなんだったら仲良くするのは難しいよね」

「……はぁ」


 今後、苦労が絶えない生活になりそうだが、それでも二人が少しずつなっていけるように願うことにしよう。


「……お兄ちゃんが観雫さんに取られちゃう前に、私が────」

「……一入が結深ちゃんに取られちゃう前に、私が────」


 ────そんな呑気なことを考えていた俺の気づかない内に、二人がそれぞれ俺のことを本格的に狙い始めていたことをこの時の俺はまだ知る由も無かった。

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