第25話 観雫は提案する

 結深が三人分の料理を作り終えると、俺と結深はキッチンから観雫の居るリビングに戻り、結深の作った料理をテーブルの上に置いた。

 そして、俺たちは三つの椅子を並べて俺を真ん中に置いて左が観雫、右が結深という順番で椅子に座った。

 早速ご飯を食べ始めようとした俺だったが────右隣の結深が、俺に肩を寄せてきて言った。


「お兄ちゃん!いつもみたいに食べさせて!」

「……いつも?」


 その言葉に反応した左隣の観雫は、俺の顔を窺ってきた。


「し、してない!結深、変なことを言うな!」

「え〜?私、いつも夢の中でお兄ちゃんとご飯食べさせ合いっこしてるよ?ううん、ご飯の食べさせ合いっこだけじゃなくてもっと────」

「それ以上は聞きたく無いからやめてくれ!とりあえず自分で食べろ!」


 その後、しばらく静かにご飯を食べすすめていた俺たちだったが、途中で結深が手を食べて聞いてきた。


「……ねぇ、お兄ちゃんと観雫さんって、本当に友達なんだよね?」

「あぁ、そうだ」

「やましいこととかしてない?」

「してない」

「本当に?」

「本当だ」


 俺がそう答えると、結深は嬉しそうに俺の右腕に自分の左腕を絡めて言った。


「じゃあお兄ちゃんと一番イチャイチャしてるのは私ってことだよね!やった〜!」

「あくまでも、兄妹としてだからな」

「お兄ちゃんとイチャイチャできるなら、今はとりあえずそれでもいいよ〜」


 腕を絡めてきていてご飯が少し食べづらかったが、ここは家の中だし払うほどのことでもないので俺は気にせずご飯を食べた。

 そして、ご飯を食べ終えると、俺と結深は二人で洗い物をして────


「ご飯を食べ終えたから、次はお風呂だな……誰が一番最初に入る?」


 という話をすることにした。

 すると、結深が大きな声で手を挙げながら言う。


「は〜い!私がお兄ちゃんと一緒に入る!」

「一入?」


 結深がその発言をすると、観雫が俺に冷たい視線を向けてきた。


「言っておくが、俺はそんなことを結深としたことがないし、当然今日だってそんなことするわけない……結深、ちゃんと一人一人だ」

「でも、一人一人だったら私がお風呂入ってる時お兄ちゃんと観雫さんが二人になっちゃうから、その間に二人が何するかわからないじゃん」

「それは私も同感、一入と結深ちゃんを二人にしておくのは不安」


 結深はともかくとして、観雫の意見はもっともだ……さっきキッチンで頭を撫でたことでだいぶ機嫌が戻ったとは言っても、まだ結深は俺に対して怒っているだろうから、二人になった途端にそれを解放して何かをしてくるかもしれない。

 その会話が詰まって数十秒ほどした頃、観雫がそれを破って言った。


「ねぇ、私からの提案なんだけど────三人で一緒にお風呂に入るっていうのはどう?」

「は……!?さ、三人で一緒に!?」


 それに大きく驚いた俺だったが、驚き以上の拒絶反応を示したのは結深だった。


「絶対嫌!それって、観雫さんがお兄ちゃんの体を見るってことじゃん!」

「体って言っても巻くところにはタオル巻けば良いし、一入の体を見れるのは私だけじゃなくて結深ちゃんもだよ?」


 観雫がそう言うと、結深は頬を赤く染めながら「お、お兄ちゃんの、体……」と俺と腕を絡める力を少し強めたが、冷静さを取り戻すように首を横に振って言った。


「でも!やっぱり私以外の女がお兄ちゃんの体見るなんて絶対嫌!」

「自分以外の女の子に一入の体を見られたくないって言うなら、今後一入と海とかプールとか行くのは結構難しいと思うけど、結深ちゃんは一入とそういうところに行きたくないの?」

「行きたいに決まってるじゃん!」

「それなら、今日ここで私が一入の体を見ることぐらいは気にならないよね?それともやっぱり一人一人入って、結深ちゃんがお風呂に入ってる間私と一入を二人にしてみる?」

「それは……嫌」

「じゃあ、三人でお風呂に入るってことで良いよね?」

「……」


 観雫は、結深のことをしっかりと言いくるめてみせた……ここまで来れば、色々と思うところはあったとしても観雫の案に乗るほかないだろう。

 ……結深と観雫の二人と一緒にお風呂、か。

 妹と友達に対してこんな感情を抱くのは不思議だが、それでも俺は心臓の鼓動を早めずにはいられなかった。

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