第21話 観雫は魅力的

「まずいこと……?朝からどうしたの?」


 慌てた様子の俺に困惑している様子の観雫に、俺はひとまず結深が俺と女の子と関わっていないかどうかを直接確認するために、今日の三限目の休み時間になったら俺の教室にやって来るという状況になっているということを伝えた。


「なるほどね……それで、その対策がしたいってこと?」

「そうだ……身を隠すなり誤魔化すなり、とにかく何か対策をしたい」


 ようやく本題に入り始め、観雫も考える素振りを取った────が、その数秒後に観雫は衝撃的なことを言った。


「別に、対策なんてしなくていいんじゃない?」

「……え?」


 対策なんて……しなくていい?


「ど、どういうことだ?もし俺が女の子と関わってるってバレたら、結深を刺激することに────」

「私もそう思ってたけど、それで刺激されて結深ちゃんが何か行動に出るんだとしたら、結局早いか遅いかの違いだけだよ……今後の人生で女の子と全く関わらないなんて無理だろうし、関わったとしても結深ちゃんにずっとバレないようにするのも無理……なら、もうバレちゃっても良いんじゃない?」


 ……観雫の言うことはわかる。

 確かに、今逃れたとしても、結局これからの人生のどこかで俺は必ずそのことと向き合わないといけない時がやって来る。

 結深と向き合うための一歩をまた踏み出すという意味でも、今日そのことと向き合った方が良いんだろうか。

 俺が一人頭を悩ませ考えていると、観雫が俺に手を重ねて言った。


「大丈夫だよ、一入だけだったら不安だけど、私も付いてるから」

「観雫……そう、だな」


 俺には幸い、今観雫というこの問題を一緒に解決してくれようとしている友達が居る。

 そのタイミングを逃して、いつ向き合うというのか。


「わかった、今日観雫のことを友達として結深に紹介する、それでいいか?」

「友達……」


 俺はそう確認を取ったが、観雫は何か腑に落ちないような表情をしていた。


「観雫……?」

「え?あー、うん、それで平気……今日は、とりあえず私のことを友達って紹介してね」

「あぁ、そうしよう」


 観雫はどこか歯切れが悪かったが、一応話はまとまったためそのことについて特に追及したりはしない。


「……そういえばさ、結深ちゃん可愛かったね」

「……え?」


 一度話が落ち着いたかと思えば、観雫が突然そんなことを言い出した。


「……いきなり何の話だ?」

「ううん、可愛かったなって……顔が可愛くて、体も細くて明るくて積極的で……あんなに可愛い子なら、一入のタイプって言われても驚かないね……私とは真反対」


 観雫は、どこか目を暗くしてそう言った……真反対?


「確かに性格は違うかもしれないが、美人で体も細くて魅力的っていう点では、観雫も一緒じゃないのか?」

「え……?」


 俺がそう言うと、観雫は暗くしていた目を少し明るくして驚いた様子だった。


「結深は妹で、観雫は友達だから俺は特に何も気にしていないが、異性として見たら二人とも本当に高いレベルで魅力的に見えると思う」

「……私が?」

「あぁ観雫は魅力的だと思う……自覚無かったのか?」

「自覚、っていうか……私も含めて他の誰かが私に対してどう思ってるかよりも、一入が私のことそんな感じに思ってくれてたことに驚いたの」


 そう言いながら、観雫はどこか嬉しそうにしていた。


「そうは言っても、異性として見たらって話で、別に普段はいちいちそんなことを感じて接してるわけじゃないから安心してくれ」


 俺がそう伝えると、観雫は俺の頬を一瞬だけ軽くつねった。


「な、なんだ!?」

「別に」


 さっきまで嬉しそうにしていた観雫は、俺から視線を逸らして頬を膨らませ不満気な様子だったが、不機嫌になったというわけではなさそうで、口角を少しだけ上げながら何かを小さく呟いていた。


「そっか……そう、思ってくれてたんだ……私も、一入のことをどう思ってるのか、ちゃんと一入に伝えたいな……」


 その声は聞こえなかったが、朝から色々と話し合った俺と観雫はその後の休み時間も一緒に過ごし────あっという間に時間は過ぎて、いよいよ結深が俺の教室にやって来る三限目の休み時間となった。

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