第19話 観雫は決意する
観雫は、何かを言いかけたところでその続きを言うのをやめた。
「……観雫？」
俺が少し様子のおかしい観雫の名前を呼ぶと、観雫は頬を赤く染めて言った。
「な、なんでもない、なんでもないから！」
観雫は勢いよく首を横に振ってそう言うと、一度息を吐いて落ち着いた様子で再度話し始めた。
「とにかく、私が言いたいのは、もし私があの時一入にぶつかってあげてなかったら、一入はあのまま結深ちゃんに抱きしめられてたってこと」
「そんなことはない、俺だってもし話し合いができそうにない状態だったなら、その時は結深のことを引き剥がしてでも抱きしめるのをやめてもらう」
「本当にそれができるなら良いけどね、結深ちゃんからの迫られ方によってはそれもできないんじゃない？」
「……何が言いたいんだ？」
「……例えば、結深ちゃんが一入とえっちしたいって思って、一入に迫ってきたらどうする？」
なるほど……どうやら観雫は、俺が結深からそうやって迫られれば、結深のことを引き剥がしたりすることなくそのまま受け入れるんじゃないかと考えているらしい。
────だとしたら、俺が結深のことをどれだけ妹として大事だと思っているかということがまだ観雫にはわかっていないし、何よりそういうことなら俺は実話としてそれに意見を示すことができる。
「結深がそう迫ってきても、俺の返事は何も変わらないし、この前実際に結深からそうやって迫られたこともあったけど、結局は結深も本当はそんなことをしたくないっていうことで解決したんだ……だからそんな心配も必要ない」
気持ちの面、そして実際にそうやって解決したという実話の二つで話せば、観雫だって何も言いようがない────と思っていたが、観雫は俺に冷たい視線を送りながら言った。
「へぇ、もうそうやって迫られてたんだ……えっちしたいって迫られたなんて結構重要な話だと思うんだけど、それを私に言わなかった理由を聞いてもいい？」
「え？そ、それは……」
そうだった……まだ観雫にはそのことを伝えていないんだった！
……だが、ここは正直に答えた方がいいだろう。
「純粋に、伝えるタイミングがなかったっていうか、解決したことだから俺も頭から抜けてたんだ」
「そう────でも、一回凌いだってだけで、今後も凌げるとは限らないよね？」
「そんなことはない、結深はできることなら強引な手段は使いたくないと思って────」
「できることなら、だよね？じゃあ、もしそのできることならのラインが崩壊するようなことが起きたら？」
できることならのラインが、崩壊するようなことが起きた時……そんなことが起きるのかは不明だが、仮に起きたとしても────
「その時は、結深のことを俺から引き剥がしてでもその状況から脱してみせる」
「……それなら、今回はそれでいいよ」
……色々と話し合ったが、とりあえず今回の話はこれで終わりということらしい。
最初はよくわからなかったものの、最後まで話し合ってみると改めて俺の状況を整理する良い機会になったと言えるだろう。
「ねぇ一入、もし……もし、私が……」
観雫は何かを言おうとした様子だったが、一度開きかけた口を閉じ、かと思えば再度開いて言った。
「ううん、やっぱり……なんでもない────でも、一つだけ……今後もそういうことがあったら、その詳細を私に教えてね？」
「わかった」
「あと、わかってると思うけど、何があっても結深ちゃんに手出したらダメだよ？」
「一つじゃなくなってるが────当たり前だ、そんなことは絶対にしない」
「……うん」
その後、観雫は少し浮かない様子だったが、せっかくカラオケに来たので一緒にカラオケを楽しんでいる間に、観雫のその浮かない様子は無くなっていったため、俺は特に気にしないことにした。
そして、一時間ほど観雫とカラオケで過ごすと、俺たちはそれぞれ家へと帰った。
「結深ちゃんは、一入にアプローチし始めてる……結深ちゃんに嫉妬してる場合じゃない……私だって、一入のことがもう我慢できないぐらい────好きなんだから」
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