第18話 観雫の感情
十分ほど観雫と一緒に歩いていると、観雫がある場所の前で足を止めた。
「観雫?」
「入るよ」
短くそう言うと、観雫はその店内に入った。
……その店というのはカラオケで、俺は少しだけ拍子抜けしそうになったが、逆に言えばカラオケのような個室空間じゃないと伝えられないことなのか。
……そう考えるとさらに緊張感が増してきたが、どれだけ緊張しても良いことはないため、俺は少し肩の荷を下ろしてから観雫の後を追うようにカラオケ内に入った。
そして、割り当てられた号室に、俺と観雫は二人で入る……部屋の大きさとしては、二人にしては広いが、四人とかだと狭く感じそうなぐらいの大きさだ。
二人で使う分には特にストレスなく過ごせそうだと思いながら、俺と観雫は隣り合わせにソファに座る。
「それで観雫、今から歌うわけじゃないんだよな?」
「歌っても良いけど、それは私の伝えたいことを伝え終わった後だね」
「そうか……それで、その伝えたいことっていうのは?」
俺がストレートにそう聞くと、観雫は真剣な顔つきで話し始めた。
「伝えたいことを伝える前に、一入にいくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「あぁ、なんだ?」
「……一入は、結深ちゃんと恋人関係になりたいって思ってるの?」
「え……?」
その観雫の質問に対し、俺は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
今までの話から俺が結深とそういう関係になりたくないということは何度も言ってきたことだし、そんなことは観雫だってわかっているはず……とすればここは、あくまでも確認のために聞いているということだろうか。
そういうことなら、何も余計なことは言わずに思っているままを伝えよう。
「思ってない、結深は俺にとって大事な妹だ」
俺がそう伝えると、観雫は間を空けずに少し目を鋭くして言った。
「じゃあ、土曜日に結深ちゃんと手を繋いでたのはどうして?」
観雫の雰囲気から、ここからが本題ということがわかるし、実際に耳の痛い話だ……だが、そのことに関しては一応俺にも考えがあったため、そのことを観雫に伝える。
「あれは……俺だって最初は断ろうとしたが、断ることで結深のことを異性として見てるみたいになるのは嫌だったから、あくまでも兄妹としてっていうのを結深に念頭に置いてもらった上で手を繋いでたんだ」
俺のあの時の考えを全て話すと、観雫は呆れた様子で言った。
「そんなの、結深ちゃんからしたらどうでも良いことだよ、どっちにしても一入と手を繋げるんだから……それに、傍から見てたら恋人にしか見えないよ?」
「傍からどう見えてたとしても、俺たちは兄妹だ」
「傍から恋人に見えるようなことを許容しちゃってるのが問題だって言ってるの、水族館で結深ちゃんに抱きしめられてた時だってそう、家の外で兄弟のことを抱きしめるなんて普通じゃないよ」
……どうしてか、観雫が少し怒っているような気がする。
観雫から見て、俺の言っていることと行動が反しているように見えるからか、それとも何か別の理由があるのか……どちらにしても、この観雫の言葉は今後のためにもしっかりと受け止めた上で話し合わないといけないことだと感じた俺は、しっかりとそれに向き合って話す。
「あの時は誰かにたまたまぶつかられてうやむやになったが、俺もあの時は結深に反論しようとしたんだ」
「そう、もし私があの時ぶつかってあげてなかったら、一入はあの時きっと抱きしめられたまま反論を続けてたと思うよ」
私があの時ぶつかってあげてなかったら……?
……そうか。
「あの時俺にぶつかったのは、観雫だったのか?」
「うん、あの時は一入にムカついたっていうのと、あの状況を変えてあげるために一入にぶつかったの」
「確かに、結果的にあれには助けられたことになったが……観雫はその時、どうして俺にムカついたんだ?」
俺がそう言うと、観雫は顔を俯けて自分の胸に手を置いて言った。
「この間、一入が私に秘密ごとをしてた時とは全然違う、ムカついたっていうか……私は自分の感情にそこまで鈍感じゃない、きっと、これは────」
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