第17話 観雫は問い詰める
「……」
席に座ろうとしていた俺だったが、見れば見るほどに観雫の表情や雰囲気が不機嫌そうだったため、今日は一度教室の外に出て、朝のチャイムのギリギリの時間になったら自分の席に着くことにしよう。
そう考えた俺は、自分の席の前から教室のドアへ足を進め────ようとしたが、それを一つの声が止めた。
「一入、どこ行くの?そこ、一入の席でしょ?」
「え?……あぁ、なんでもない」
観雫にそう言われた俺は、まさか「観雫の顔が不機嫌そうだったから教室を出て行こうとした」なんて言うことはできないため、俺は大人しく自分の席に着き、観雫と向かい合った。
「……」
「……」
観雫が不機嫌な理由の正体が掴めないので、俺の方はとりあえずいつも通りに観雫と接してみよう。
「観雫、おはよ────」
俺がいつも通りの挨拶をしようとした時、観雫がそれを遮るように口を開いて言った。
「一入、私に隠してることとかない?」
「……え?」
俺が観雫に隠してること……?
……少し考えてみるも、そんなものは思い当たらない。
「何も隠してない」
「本当?もし今正直に言えば、足踏むぐらいで許してあげるよ?」
「それは許してるって言わないだろ!でも、本当に隠し事なんてしてない」
俺がそう言うと、観雫は俺の目を見つめてからさっきよりも少し不機嫌さを落ち着けた様子で言った。
「…… 別にわざわざ私に言わないといけないようなことでもないから隠してるっていうのは言い過ぎたかもしれないけど、今後の結深ちゃんとの話にも関係してくることだと思うし、何よりあんな形で目撃しちゃうことになるぐらいなら、私は友達としてちゃんと一入の口から聞きたかった」
「俺の、口から……?悪い、何の話をしてるのかが全くわからない」
そう口に出しながら俺が困惑していると、観雫が言った。
「一入の彼女の話だよ」
「俺の、彼女の、話────お、俺に彼女!?」
そのパワーワードに、俺は思わず大声を上げてしまったが、すぐに声を元のボリュームに戻して話す。
「お、俺に彼女って、どういうことだ?」
「どういうことって……隠さなくていいよ、私見ちゃったから」
「見た……?何を見たんだ?」
俺がそう聞くと、観雫は一瞬だけ苦い表情を浮かべたが、それを抑えるようにして言った。
「一入が……可愛い女の子と手繋いで、その女の子から抱きしめられてるとこ」
「っ……!?そんなわけないだろ?俺がそんな────」
そう反論しようとした時、俺はあることが思い浮かんだ。
「観雫……それは、土曜日のことか?」
俺がそう聞くと、観雫は小さく頷いて言う。
「そう、可愛い彼女とのデート日だから、よく覚えてるよね?」
俺は結深のことを妹として見てるから、可愛い女の子とか彼女とか言われて本当に一瞬何の話かわからなかったが、そういうことなら色々と合点が行った。
土曜日、それは────俺と結深が出かけた日だ。
あの日は確かに結深と手を繋いだり、結深から抱きしめられたりもした……どういう経緯かはわからないが、観雫はそれを見ていたということだろう。
全く最悪のタイミングだが、とにかくここは観雫の誤解を解くのが先決だ。
「……観雫、観雫の言うその可愛い彼女っていうのは俺の彼女じゃない」
「嘘だよ、あんなことしといて今更────」
「土曜日、俺が出かけた相手は俺の妹の結深だ」
俺がそう告げると、観雫は大きく目を見開いて驚いた様子だった。
そして、そのまま口を開いて言う。
「あの子が……妹の、結深ちゃん?」
「そうだ」
「あんなにイチャイチャしてたのに……?」
「そう見えたなら、それだけ結深のアタックは凄まじいってことだ」
「……なんだ、一入の彼女じゃなかったんだ……良かった……」
俺が事実を告げると、観雫は小さな声で何かを呟きながら安堵した様子だった。
「ひとまずこれで誤解が解けたなら、早速その結深の対策を────」
と言おうとした時、観雫がそれを遮るようにして言った。
「ううん、その前に……一入、今日の放課後時間ある?」
「放課後……?あるけど、放課後に何かするのか?」
「……一入に、伝えておきたいことがあるの」
観雫は真剣な顔つきで、とてもじゃないがこの場でその伝えておきたいことというものを言及することはできそうにないため、俺はそれに頷くことで返事をする。
────そして、放課後になると、俺と観雫は学校から出て一緒に歩き始めた。
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