第16話 義妹は抱きしめる
結深と手を繋いだまま、結深の希望で水族館に向かっていた俺と結深だったが────その道中、結深は通常の手の繋ぎ方をしている現状から恋人繋ぎをしようとしてきていたため、俺たちは今何度も手を繋いで離し、手を繋いで離しを繰り返している少し変なことになっていた。
「結深、いい加減諦めたらどうだ?」
「お兄ちゃんの方こそ!そんなに私と恋人繋ぎするの嫌なの!?」
「今までの俺の言動からそのぐらいわかるだろ!」
「私たちが兄妹だって言うんだったら、手の繋ぎ方ぐらい別にどんな繋ぎ方でもいいじゃん!」
「どんな繋ぎ方でもいいっていうならこのままでもいいだろ?」
「もう!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」
そう言って、結深は俺の方から顔を逸らした────が、その後で小さく、だが俺にも聞こえる声で言った。
「……嘘、大好き」
「……はぁ」
相変わらず、こういうところは妹として可愛いから困るな。
俺は、手を繋いでいない方の手で結深の頭を撫でる。
「お、お兄ちゃん!それ絶対私のこと妹として頭撫でてるんでしょ?私そんなの嫌なんだけど!」
「そう思うなら俺の手を払えばいい」
「お兄ちゃんに頭撫でられて、それを払うなんて私にできるわけないじゃん!」
「そんなに強く言えることか?」
なんて会話をしていると、俺と結深はあっという間に水族館前に到着したので、俺は結深の頭を撫でるのをやめて、結深と一緒に水族館の中に入った……頭を撫でるのはやめたが、結深が力強く俺と手を繋いでいたため、手だけは繋いだまま一緒に水族館の中に入った。
「わ〜!綺麗〜!」
結深は、暗い中で輝くように見える水槽の中の魚たちが群れを作って泳いでいるのを見て、とても楽しそうにしていた。
その後も色々な魚を見て回って、水中トンネルを歩きながら結深と軽く話していた。
「水族館って良いよね、暗いけどところどころ綺麗な青とか水色の水槽があって、ロマンチックで静か……」
「そうだな、今まで特段楽しいと思ったことはなかったが、そういう見方をすれば水族館もとても良い場所に思えてくる」
「うん……」
そして、水中トンネルを抜けると、今度は水中トンネルとは打って変わってとても暗い場所へとやって来た。
なるほど、どうやら曲がった先に水槽があるだけで、ここには本当に薄いライトぐらいしかないから暗いんだ……例えるなら、上映中の映画館のような暗さといったところだろうか。
一人そんな分析をしていると、俺と手を繋いでいる結深が足を止めたため、俺も足を止めた。
「結深?どうかしたのか?」
「……お兄ちゃん、ここなら誰も見てないから、私たちが何したって平気だよね?」
「……え?何したって平気って、どういう────」
結深の言葉の意味がわからず俺が困惑していると、結深は俺と手を繋ぐのをやめた────かと思えば、俺のことを抱きしめてきた。
「ゆ、結深!?」
「私、今お兄ちゃんのこと抱きしめてる……家の中でもできることだけど、家の中だとやっぱり兄妹って感じが強くしちゃうし、何より家の外でお兄ちゃんのことを抱きしめるとお兄ちゃんは家の中でも外でも私だけのお兄ちゃんなんだって思えて、あとは単純にお兄ちゃんのこと抱きしめられるのってめっちゃいい気持ち……」
家の中で結深に抱きしめられたなら、それは兄妹ということで片付けられたが、いざ初めて家の外で結深に抱きしめられてみると、とてもじゃないが兄妹として片付けることはできない────というか、これは止めないといけない。
「結深、俺たちはこういうことをしたらいけな────」
俺のことを抱きしめてくる結深に、それをやめるように伝えようとした俺だったが、その直後に俺は後ろから軽くぶつかられた。
そのことに気がついた結深は俺のことを抱きしめるのをやめると、後ろから女性の謝る声が聞こえてきた。
「……すみません、暗くて見えなくて」
「あぁ、気にしないでください……俺たちの方こそ、立ち止まっててすみません」
そんな短いやり取りをすると、女性はすぐにその先を歩いて行った。
……暗くて顔はよく見えなかったが、どこかで聞き覚えのあるような声の気もした。
とは言っても、水族館の中で声を抑えている感じだったから、その詳細は不明だ……それはそれとして。
「結深、やっぱりこんなところで立ち止まってたら今みたいなことにもなって他の人に迷惑になるから、外でこういうことをするのはやめよう」
「……外でっていうのはともかく、お兄ちゃんが誰かにぶつかられちゃうのは私も嫌だったから、屋内でするのは良くなかったね、今度は屋外でするよ」
「それはそれでもっとよくないからやめてくれ」
その後、俺と結深は手を繋ぎ直して水族館を楽しんでから家に帰ることにした……そして、家に帰ってから結深は俺のことを抱きしめようとしてきたが、家だとしても今日結深に抱きしめられると別の意味も感じてしまいそうだったため、どうにか結深に抱きしめられるのを回避し続けてその日を終えた。
それで一件落着────と思っていたのも束の間、月曜日になって学校に登校すると、明らかに不機嫌な様子の観雫が俺の前の席に座っていた。
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