第12話 義妹は既成事実を作りたい
「おかえり!お兄ちゃん!」
「ただいま、結深」
放課後になって家に帰ってきた俺のことを、今日は寝たふりではなくしっかりと俺のことを出迎えてくれた結深と一緒に、リビングで夕食を食べ始めた。
俺はふと、前に観雫に言われたことを今まで実行できていなかったことを思い出したため、そのことを結深に言ってみることにした。
「結深は、今誰のことが好きなんだ?」
「え?何いきなり、お兄ちゃんに決まってるじゃん!」
「じゃあ結深、少し質問を変えよう、この世界に男性は何人居る?」
「何人って言われても具体的な数はわからないけど……大体全人口の半分ぐらいだよね?」
「そうだ、つまりこの世界には俺以外にもたくさんの男が居るってことだ」
────そう、これは前に観雫から言われた、結深の思考の外堀を埋めていくというやつだ。
結深は今、一番身近な異性である俺のことしか見えていない……だから、この世界には他にもたくさんの男が居るんだということを結深に教える。
観雫の言っていた通り、そんな当たり前のことだったとしてもきっと結深には必要なことで、それを伝えるのが兄としての役目なんだろう。
……そう考えていたものの、結深はぽかんとした様子で言った。
「そんなこと知ってるよ?お兄ちゃんは何が言いたいの?」
「……要するにだ、結深は一番身近に居る異性が俺しか居ないからって俺と結婚したいと思っているのかもしれないが、もっと広く世界を見たら選択肢は俺だけじゃなくてもっとたくさんあるってことだ」
「……もっと色々な男を見たら、私がお兄ちゃん以外の人を好きになる可能性があるってこと?」
「そうだ」
俺がそう言うと、結深は一度顔を俯けた。
……もしかしたら何か踏んではいけないものを踏んでしまった────かのような空気を一瞬感じたが、顔を上げた結深の表情は特にそんなものを感じさせない、落ち着いた表情だった。
そして、結深は口を開いて言う。
「……お兄ちゃん、このことは私たちの今後に関わることだから、一度夕食は置いてソファで話さない?」
「……そうだな」
どうやら、俺の話をちゃんと聞いてくれる気になったようだ。
こういった話関連でここまで結深が耳を傾けてくれたのは初めてかも知れない、ありがとう観雫……ここからは、俺が兄としての役目を果たすだけだ。
夕食を食べていたテーブル前の椅子から立ち上がると、俺と結深は隣り合わせでソファに座った。
「結深、いきなり全ての思考を変えるのは難しいと思うから、今から俺と話してゆっくりと変えて────」
そして、俺が結深の思考を変えていく手伝いを始めようとした時、結深は突然立ち上がって、結深が居なくなったことによるソファの空きスペースに俺を倒して、俺の上に跨った。
「……え?なんだ?」
今からゆっくりと結深と話すつもりだった俺は、突然のことに何が起きたのかわからなかったが、とりあえず結深が俺の上に跨っていることだけは確認できた。
「ゆ、結深?これはどういうつもりだ?」
「私が聞きたいよ、お兄ちゃんの方こそどういうつもりなの?」
「俺はただ、兄としての────」
「お兄ちゃんがしたことは、私のお兄ちゃんに対するこの気持ちを踏み躙る行為だよ……私はお兄ちゃんのことをこれだけ大好きなのに、お兄ちゃんはそれをあくまでも一番身近に居る異性だからなんて安い理由で片付けて、お兄ちゃん以外と恋愛したらってことだよね?」
「ち、違う、俺はそんなつもりで言ったわけじゃ────」
「安心して、お兄ちゃんは本当はそんなこと言わない優しい人だってことは、私が誰よりもわかってる……きっと、お兄ちゃんは私がどれだけお兄ちゃんのことを好きか、まだわかってないだけなんだよね……だから────今からそれを教えてあげる」
そう言うと、結深はあっという間に制服のブレザーのボタンを外した。
「結深?何をするつもりだ?」
「お兄ちゃんに、私がお兄ちゃんのことを大好きだってことを身を持って教えてあげる……既成事実作っちゃった方が私としても色々とやりやすいし、良い機会だよね」
そう言って、結深は頬を赤く染めながら妖しい笑みを見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます