第11話 観雫はタイプが気になる
俺には、どうして観雫がここまで鋭い目でそんなことを聞いてくるのかがわからなかった。
仮に俺が結深にそういったことを言われていたとしても、それは観雫には関係のない話のはずだ。
「……」
違うか、観雫は俺が結深からそういうことをしたいと言われたという具体的なことを知りたいというわけではなく、俺が観雫に隠し事をしているということが気にかかっているんだ。
観雫は友達として、結深が俺と結婚したいと言っている状況をどうにか解決するために協力してくれると言ってくれていたのに、そんな観雫に対して隠し事をするというのは観雫の友達としての優しさを裏切ってしまうことになる。
……それなら、隠す必要なんて何もないな。
「悪い……関係ないと思って話さなかったが、実はもう結深が俺とそういうことをするのを肯定しているのは聞いた」
「……っ!そうだったんだ……」
観雫は一度目を見開いてため息を吐いて言った。
「……まず、一入はそのことを関係ないと思って話さなかったって言ったけど、体を許せるかどうかっていうのは今後この問題を解決するためにも大きく必要になる情報だから、今後は一入だけの判断で関係あるかどうかを決めるんじゃなくて、結深ちゃんの考えとかどのぐらい一入のことが好きなのかがわかりそうな話があったら、全部包み隠さず私に話して」
「わかった」
俺が素直にそう答えると、観雫は一度俺から視線を逸らして、再度俺のことを見て言った。
「もう一つ、なんだけど……一入は、結深ちゃんとそういうことをしたいの?」
「……は!?そ、そんなわけないだろ!?確かに結深の見た目は俺のタイプだが、妹とそんなことをしたいと思うわけ────」
「タイプ……?」
────しまった。
突然意味のわからないことを言われてしまったから、慌てて返事をしようとしたら余計なことまで言ってしまった。
観雫は、続けて疑問を呈してきた。
「結深ちゃんは、一入のタイプなの?」
そう聞かれた俺は、咄嗟の判断でそのことを隠そうかとも思ったが、ついさっき包み隠さず話すように言われたのに、その直後から隠し事をするわけにはいかないし、もう今後はできるだけ観雫に隠し事はしたくないと思っているため、俺は正直に打ち明ける。
「そうだ……でも、見た目がタイプっていうだけで、本当に結深のことは妹だと思ってるし、変な気だって起こしたりしてない、それだけは信じて欲しい」
俺が真っ直ぐ観雫の目を見てそう伝えると、観雫はさっきよりも大きなため息を吐いて言った。
「正直、妹の見た目がタイプとかちょっと引きかけたけど、妹だって思ってるのは本当なんだね」
「あぁ……でも、結深が厄介なのは義妹だってところだ……当然俺はちゃんと妹として見てるし、今後もそう接するつもりだが、結深の方は本当の妹じゃなくてあくまでも義妹だからって、俺と結婚したいと考えてる」
「見た目がタイプで、しかも都合の良いことに義妹だったら、危うく手出しちゃうかもしれないね」
「そんなことは絶対にしないが、俺はそれが恐ろしい……しかも、結深は見た目だけじゃなくて性格も良い、俺と結婚したいという考えさえ持っていなければ、明るくて優しい一緒に過ごしていて楽しい妹なんだ」
「本当に厄介、ってことだね」
観雫は少し考えた素振りを取って言った。
「ねぇ、結深ちゃんの写真とかない?」
「……結深の写真?」
「うん」
「どうして結深の写真を見たいんだ?」
「だって、一入のタイプなんでしょ?一入のタイプの子がどんな感じなのか興味あるし、純粋に気になるから」
「そ、そんな理由で見せるわけないだろ!」
そんなことをしたら「へぇ、こういう子がタイプなんだ」とか言いながら笑われるに決まっている。
「いいじゃん」
「ダメだ」
このまま結深の写真を見せるわけにはいかない……が。
「どうしてもって言うなら、観雫のタイプも教えてくれ」
「え……私のタイプ?」
「そうだ」
それなら交換条件としてしっかりと成立する────と思ったが、観雫は何故か突然俺のことを見ながら顔を赤くし、立ち上がって少し上擦った声で言った。
「ご、ごめん、そろそろホームルーム始まるから、この話忘れて!」
そう言うと、観雫は自分の席へと戻って行った。
……どうして観雫があんなにも慌てた様子だったのか俺にはわからなかったが、忘れてと言われたため今は一度忘れておくことにした。
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