第10話 観雫は確認して欲しい

「おはよう、観雫」

「……おはよう」


 翌日の朝学校に登校していつも通り観雫に挨拶した俺だったが、観雫はいつもよりもかなり元気が無い挨拶を返してきた。


「観雫、どうしたんだ?今日はいつもより元気がない」


 そう言いながら席に着くと、俺と向かい合うように座っている観雫が、暗い表情で言う。


「そんなことないよ」


 そんな表情で言われても全く説得力が無いな……そういえば、昨日も別れ際は様子がおかしかったような気がする。

 なんてことを思っていると、観雫が口を開いて言った。


「……昨日の結深ちゃんとのお出かけ、楽しかったの?」

「え?あぁ、楽しかった……久しぶりに兄妹で出かけたって感じだったな、ちょっとだけハプニングはあったが」

「ハプニング……?」


 まさか、妹に脱がせて欲しいと言われたなんてことは言うわけにはいかない。


「……その内容は秘密だ、どうにか乗り切ることもできたしな」

「……私に秘密にしないといけないようなことをしたってこと?」

「してない、さっきも言ったがどうにか乗り切れたんだ」

「どんなことしようとしてたの?」

「俺がしようとしたわけじゃ────って、これなら話したほうが早いか」


 よく考えれば、観雫にはもう結深が俺と結婚したいなんて言ってきているという一番異常なことを伝えてあるため他の何を伝えても大体問題ないだろうし、伝えたら何か結深に対する対策も浮かんでくるかもしれない。

 ということで次の休み時間、俺と観雫は、ほとんど誰も立ち寄ることのない校舎裏までやって来た。

 すると、早速観雫が聞いてくる。


「それで、秘密って何?」

「あぁ……実は昨日、結深に脱がせて欲しいって言われたんだ」

「……脱がせ、え?……何を?」

「服を」


 俺がそう答えると、観雫は少し固まってから俺にとても冷たい視線を送りながら言った。


「それで、脱がせたの?」

「そんなわけないだろ?俺はちゃんと兄としてそんなことはしなかったんだ」

「そうなんだ……なら、良いけど」


 観雫は、少し安堵したような表情でそう言った。

 その後、観雫は何故か自分の体を数秒眺めてから、俺の顔を見て言う。


「ねぇ、結深ちゃんって私より胸大きい?」

「……え?……わ、悪い、質問の意図がわからない」


 観雫のことだから何か意図があるんだとは思うが、少なくとも俺の脳でその答えを導き出すことは不可能だった。


「質問の意図とか考えないで、ただ答えてくれたら良いの」


 これも何か結深の対策に関係のある話なんだろうか……だが。

 結深も観雫も胸が大きいため、制服を着ていると分かりづらい。


「制服の上からじゃわからないな」

「……そう」


 とりあえず、この話はこれで終わり────


「じゃあ、今から脱ぐから直接確認して?」

「今から脱ぐって……何を言い出してるんだ?」


 俺が驚いている間に、観雫は本当に制服のボタンを外し始めた。


「待て!こんな校舎裏で脱ぐ気か?」

「誰も見てないよ、それとも校舎裏じゃ無かったらいいの?」

「そういう問題じゃない!」


 なんだ……?本当に何か深い意図があるのか?そうじゃないと、俺の前で脱ぐ理由なんてない……一体どんな────なんてことを考えている間にも、観雫は次々にボタンを外している。

 観雫の質問から、何か脱ぐのをやめてもらえるようなヒントを────そうだ。


「観雫、俺は結深の脱いだ姿を見たことがないから、結深と観雫どっちの胸が大きいかなんて、そもそも比べることができない」


 そう、観雫は何故かはわからないが、自分の胸が結深よりも大きいかどうかを気にしていた。

 だから、その確認が取れないとなれば、当然観雫に脱ぐ理由は無くなる。

 俺がそう言うと、観雫は予想通りボタンを外す手を止めて、ボタンに向けていた目を俺の方に向けて言った。


「……そうなんだ、じゃあ私脱ぎ損ってこと?」

「損か得かはわからないが、観雫が脱いでも何にもならない」


 少し考えた様子だったが、観雫は外したボタンを全て元通り付けると、校舎裏の壁にもたれて言った。


「それにしても、脱がせてなんて……結深ちゃん、本当に一入のこと男として見てるんだね」

「……そう、なのかもな」

「この調子だと、えっちしたいなんて言われる日も遠くないかもね」

「……」


 したい、と言われていたかは覚えていないが、少なくとも俺と結深でそういう行為をすることを肯定はしていたような気がする。

 が、あのことはわざわざ観雫には伝えなくても良いと思い、観雫に結深と話したことを伝えるとき、その部分は省略した。

 俺がなんとなく気まずくなって観雫から視線を逸らすと、観雫が目を鋭くして言った。


「ねぇ、まさかとは思うけど、本当はもう言われててそのことを私に隠してるなんてこと、ないよね?」

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