第6話 観雫は自覚し始める
「……要するに、友達に恋愛感情を抱くのは良いのかってことか?」
俺は、今の観雫の言葉をわかりやすくまとめ────たつもりだったが、観雫は何故か少し慌てた様子で言った。
「れ、恋愛感情……!?ち、違うから!別に恋愛感情とかじゃないから!勘違いしないで!」
「ど、どうして例え話でそこまでムキになってるんだ?」
「なってないから!!」
どう考えてもなっている、と思ってしまった俺だったが、それを言うとさらにムキになられて話が進まなそうだったため、ここは俺が一度折れることにして、とりあえず観雫が聞いてきたことについて答えることにしよう。
「とりあえず、友達に対して今観雫が言ったような、手を繋ぐとか抱きしめ合うとか、そういうことをしたいって思うのは不純かどうかって話だよな?」
俺が恋愛感情という言い方を変えてそう言うと、観雫は落ち着いた様子で言った。
「うん……一応言っておくけど、異性の友達ね」
「あぁ」
……異性の友達と手を繋いだり抱きしめ合いたいと思うことが不純かどうか、か。
難しい問題ではあるが、まず間違いなく言えることが一つある。
「俺のケース、つまり兄弟に対してそういうことをしたいと思うよりかは遥かに純情だと思う」
「じゃあ、何とも比較せずに、そのことだけを見たら?」
「……本当に異性の友達に対して恋愛感情とか無関係にそんなことを思うことがあるのかは疑問だが、手を繋ぎたいとか抱きしめ合いたいっていうのは、別に不純じゃないんじゃないか?もっとも、観雫が言ってたそれ以上のことってなると、ものによると思うが」
「ものによるって、それ以上って言ったらキスとかえっちに決まってるじゃん」
「キス……!?それに、え……え!?」
まさか観雫の口からそんな単語を聞くことになるとは思っていなかった俺は、ただ純粋にそのことに驚いてしまう。
すると、観雫はそんな俺のことを見て小さく笑って言った。
「反応しすぎでしょ、でも、その様子だと一入は経験ないんだ?」
「け、経験って、どっちのだ?」
「この場合えっちの方に決まってるでしょ、私の見立てだとどっちも無いと思うけどね」
「……悪かったな、未熟者で」
俺がそう言うと、観雫は口角を上げて少し嬉しそうに言った。
「全然?むしろ、一入がそういうこと経験してるっていう方が想像しづらいから、イメージ通りで良かったよ」
「それは悪口なのか?悪口だよな?」
「悪口じゃないよ……むしろ嬉しいっていうか、安堵してるかな」
悪口じゃないのあとは小さな声だったため、観雫が何を言っているのか俺には聞こえなかったが、とりあえず悪口じゃないことはわかったため、今はそれで良しとしておくことにした……それはそれとして、俺は話の流れで気になっていたことがあったため、そのことを観雫に聞いてみることにした。
「観雫は経験あるのか?」
「キス?それともえっちの方?」
「両方だ」
「一入はどう思う?私、経験ありそう?」
……観雫は高校一年の二学期から俺と関わり始めてからは、学校でのほとんどの時間を俺と過ごすようになったが、元々はギャル系や明るい系と言えるようなグループに属していた。
今でも時々そのグループで話していたり、遊びに行ったりもしているらしいため、そういった意味では男の経験があっても不思議ではないし、観雫だけを見てもどこか同年齢とは思えない大人びた落ち着きを感じるため、そういった経験があると言われても驚くことはない。
「無さそうかありそうかで言えばありそうだ」
「それって褒めてくれてる?」
「あぁ、観雫のルックスとか性格とか、周りの人たちとかを見た上でそういう経験があってもおかしくないと思った」
「へぇ……嬉しいね」
「……それで、実際どうなんだ?」
「内緒だよ」
「……え?……は!?」
俺は思わず大声でそう反応した。
ここまで散々色々なことを話しておいて、最終結論が内緒!?
「だって、深いところを知らない方が良い感じするでしょ?でも、どうしても知りたいっていうなら、その時が来たら教えてあげる」
「その時って、いつだ?」
「その時はその時だよ」
そう言うと、観雫は席を立って言った。
「そろそろ自分の席戻らないとだから、またね」
「……わかった、またな」
これ以上聞いても答えてもらえないだろうことは明白だったし、あそこまで話しておいて内緒という結論には驚いてしまったものの、無理やり聞くようなことでもないため今回は引いておくことにした……この話は、一度忘れることにしておこう。
「結局、異性の友達に対してキスとかえっちしたいって思うのは不純なのかどうか、聞けなかったな……でも良いよね、それはその時に聞けば良いんだから……私は、一入と……この感情は、やっぱり……そういうこと、なのかな」
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