第4話 義妹は考え過ぎる

「い、一緒にお風呂!?」

「な〜んて!冗談だよ冗談!お兄ちゃんったら顔赤くしちゃって、私のいやらしい姿でも想像しちゃった?そんなお兄ちゃんに!私のいやらしい姿を────」


 そう言いながら着ている制服のボタンを外そうとする結深のことを、俺は言葉で止める。


「見せなくていいからそんなことするな!」

「え〜?私それなりにスタイル良いのに〜?」


 そんなことは制服の上からでもわかるし、訂正するとすれば、結深のスタイルはそれなりにではなく抜群に良い。

 容姿に関しては何から何まで俺のタイプだからこそ、俺も色々と我慢するのが大変だが、兄としての尊厳を考えればそんな大変さすらも軽く感じられる。


「結深、俺は結深の兄として、結深に対してそんな不純なことを結深に求めたりしないし、不純な感情を抱いたりもしない」

「不純……?」

「いやらしい姿とか、スタイルがどうとか、そういったことを結深に思ったりすることだ」

「どうしてそれが不純になるの?異性に対してそういうことを思ったりするのは自然なことだよ」

「……異性に対してどうこうとかは置いておくとしても、俺と結深は兄妹なんだから、そういうのを思うことは不純になるんだ」

「じゃあ、お兄ちゃんは私がお兄ちゃんと結婚したいって思ってるこの気持ちも不純だって思う?」


 結深は普段明るく優しい性格をしているが、時々とても重たい言葉を放ってくることがある。

 それがまさに今だ……兄妹なのに結婚したいと思っているというところだけを聞けば少なくとも常識的ではないと判断できるが、それが不純かと言われればきっとそうではない……だからと言って容認できるかと言われればそうではないが「容認できない」とだけ答えても、それはただ結深の感情を否定しているだけになってしまう。

 俺はそんなことがしたいわけじゃない……俺が答えに困っていると、結深が明るい声音で両手を振りながら言った。


「ご、ごめんねお兄ちゃん!こんな質問、優しいお兄ちゃんにはずるいよね!私、別にお兄ちゃんのこと困らせたいわけじゃないの……ただ、少しずつでもお兄ちゃんの考えが変わってくれたらなって思ってるだけだから!」

「俺の考え……?」

「うん、お兄ちゃんは優しいから、私のお兄ちゃんで居てくれようとしてる……だから、その考えを変えていって欲しいなって思ってるの」


 ……俺が結深の思考を変えたいと思ってるのと同じように、結深も俺の思考を変えたいと思っているということか。

 観雫……これは、もしかしたら結深の思考を変えるというのは、結構骨が折れるのかもしれない。


「でも、さっきも言った通り少しずつで良いの!もしお兄ちゃんに好きな女の子が居たんだとしたら少しずつなんてできないけど、お兄ちゃん前に好きな女の子居ない言ってたし!」

「え?確かにその通りだが、俺そんなこと言ったか?」

「うん、お兄ちゃんが高校一年生の最初の方の時に私が聞いてみたら『今までも恋愛はしたことがないし、高校でも誰かを好きになるようなことは無いと思う』って言ってた!」

「あぁ……そうだったな」


 そういえば、そんなことも言ったような気がする。


「それで、事実お兄ちゃんは家に女の子上げたりしてないし、好きな人ができた人特有の雰囲気も感じないから、それなら私はゆっくりとお兄ちゃんの考えを変えていけるように頑張ろうって思ったの……そうだ、お兄ちゃんに好きな人が居なかったとしても、お兄ちゃんのことを好きな女の子が居たりしたら私ものんびりしてられないって最近気づいたんだけど、お兄ちゃん女の子と関わったりしてないよね?」

「……え?」


 女の子と関わったりしているかどうかと言われれば、している。

 観雫がその最たる例だ……が、女の子というより、観雫は友達だし、何より今回の話は俺のことを好きな女の子が居たらという話だ。

 それなら観雫は関係ないから、観雫のことは特に伝えなくて大丈夫だろう。


「あぁ、女の子と関わったりはしてない」

「良かった〜!もし関わったりしてたら、お兄ちゃんのことを好きかどうか関係なく、私もお兄ちゃんにもっとアタックしないとって思ってたけど、ライバルが居ないなら私は私のペースでも良いよね!」

「……俺のことを好きかどうか、関係なく?さっきのは俺のことを好きな人が居たらっていう話じゃないのか?」

「お兄ちゃんを好きな人が居たとしても、そのことにお兄ちゃんが気付いてるかどうかは別だから、とにかく女の子と関わってたら私ももっとアタックしようって思ってたの……でも、お兄ちゃんが女の子と関わってないなら、まだ今まで通りゆっくりでも大丈夫だよね」


 今更「本当は女の子の友達が居る」なんて言っても意味はないだろうし、むしろ結深のことを変に刺激することになってしまうから、今後は観雫と関わっていることは全力で隠さないといけないな……もしバレたら────なんて、今までバレなかったんだから、そう簡単にバレることは無いと思うが。


「……」

「……お兄ちゃん?」


 俺がそんなことを考えていると、結深が俺のことを呼びかけてきた……表情には出ていないが、その声音は訝しげな感じだ。


「どうした?」

「今、何か考えてた?」


 当然、今俺が考えていたことを結深に伝えるわけにはいかない。


「何も考えてない」

「……そう」


 結深は何かが腑に落ちていない様子だったが、一応頷いてみせた。


「……玄関で長話しすぎたな、リビングに行こう」


 俺がそう言うと、結深は元気に言った。


「うん!もう夕食できてるから、一緒に食べよ!」

「そうだな」


 さっきあんなに話した後で、観雫に言われた通りに結深の思考の外堀から埋めると言うのは難しそうだったため、今日はとりあえず特に何も言わないことにして、また明日観雫に言われたことを実行することにして、今日は大人しく眠ることにした。


「もしお兄ちゃんに関わってる女の子が居たとしたら、その女の子は……ううん、私の考え過ぎ、だよね」



 ここまででプロローグが終了となります!


 このプロローグまで読んでいただいたあなたの感想をいいねや⭐︎、コメントや感想レビューなどで教えていただけると本当に嬉しいです!

 作者は今後も楽しくこの物語を描かせていただくので、これを読んでくださっているあなたも引き続き楽しんでくださると幸いです。

 これからもよろしくお願いします!

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